中性はグレーに染まる
eLe(エル)
プロローグ 喫茶店での会話
『皆さんはLGBTQというものをご存知でしょうか』
夕方のニュースで特集が組まれていた。少し年季の入った喫茶店の、天井から吊るされたテレビからアナウンサーの声が響く。
そんな時、聞こえてきた会話。隣の席の、女子高生と思われる二人組。
「なんかさ。あの子、このLGなんとかって奴らしいんだよね」
「え、そうなの? あぁ、それで悩んでたんだ、最近。でも、だとして何に悩むんだろ……」
「さぁ、正直わかんないけど。あーほら、恋愛対象? なんか色々あるって言うじゃん、心がどっちで体がどうとか。ウチら、ゲイなら行けるけどレズなら無理って、なんかヤバいけどさ。それってどう思う?」
パソコンと向かい合いながら、思わず聞き耳を立ててしまう。
「ジャンルとしては行けるけど、リアルで向けられたら困るなー。それも知り合いとか友達だったら距離感わかんないかも」
「だよね、安心した。ウチだけがその考えじゃなくって」
二人組の勝気そうな方の彼女は溜息を吐くと、そのままストローで飲み物を飲み干したらしい。そんな音に集中するほど、盗み聞きしていることに自分自身驚いていた。
「正直、アピールでしょ。それを馬鹿にするとか無いけど、全部受け入れるとか無理だもん。何かそういう人向けに何かやっとかなきゃーってお偉いさんの点数稼ぎ的な?」
「うーん、まあそういうのもあるかもだけど。私はどっちかって言うと、身近に居たら悩むかもなー。相談に乗っても、どうせ何もしてあげられないしさー? 男を集めての合コンとかもいらなくなっちゃうわけでしょ? 逆に男友達だとして、オカマとかニューハーフとあんまり区別分かんないし」
「わかんない。あ、けどそういうの使ってコスメとか宣伝してるYoutuberとか最近ウチめっちゃ見てる」
「分かる。美形なのよこれが。……じゃなくて、そりゃ百合カップルとかもいるけど、そういうんじゃなくてさ。遠くの国のがどーとか政治がやばいとか、本音で言ったらそんな興味ないっしょ。何ならこの街の情報以外いらんのよね」
「へー、いつも可愛子ぶりっ子してる割に毒舌吐くじゃん。炎上すんぞ?」
「いいんですー、SNSで呟かなければ。これでも清楚系で顔出ししてないんで」
「清楚(笑)」
「何笑ってんのお前」
「はい、今この話は関係ないですよ?」
「はー、てかまあいいんじゃ無い。言う通り、今のところウチらには被害ないし。合ったところでウチはどうにも出来ないから」
「うわ、冷たっ。人のこと言えないけど、相変わらずだよねぇ……まあでも、正論ですけど」
「てか、飲み物どうする?」
その後も二人は別の話に切り替わると、変わらない口調で談笑していた。
テレビはもうグルメ特集に変わってしまった。
少し気になって、調べてみる。SNSで適当に検索を掛ける。
するとヒットしたツイートや、それに関連する裏アカウントのようなものまで、目についた物を読んでみた。
『リアルゲイカップルの誕生を初めて見た。本当に申し訳ないけど祝ってあげられない。生理的に無理』
『私たち逆風にも負けず頑張ってます感、アピールマジしんどい。普通のノロケの1000倍ウザい。』
攻撃的な意見に、思わず眉を顰める。
LBGTという名前の鍵アカウントの自虐ツイートに目が止まった。
『私、殺したの。気がつけなくて、助けてあげられなかった』
『ね、性的少数派ってさ。将来どうするんだろうね。私たち、子供も家族も望んじゃいけないのかなぁ?』
『ごめんなさい。私のエゴだって分かってるけど、救わせて欲しい』
黒く、葛藤に押し潰されそうな感情が、140字でも伝わってくる。
ふと時計を見ると、もう定時を過ぎていた。いくつかツイートを横目で見ながらPCを閉じて身支度を整える。
『僕は認知してますよ。いやぁ、大変ですよね。実際その人たちの気持ちはわかんないですけど』
『大人になったら楽になるよって。じゃあ学生は死ねってことかよ』
あの二人組は、気がついたら居なくなっていた。
この喫茶店に、あのニュースが流れていたことを覚えているのは、果たして何人いるだろうか。
心が灰色を何重にも重ねて行く。
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