第9話 エピローグ
精霊樹のそばの芝が綺麗に円形に踏み倒されている。
シルビアが定着させた
金色の淡い光が周辺に漏れた。
――起動に問題なし。
カイルは携帯していた小型の
機械は正常に作動した。
『なんだ、これは』
ディム・トゥーラの声が脳裏にひびく。観測ステーションで稼働試験で届いたものを拾ったらしい。
「ディムへの袖の下、多分三年は研究できるよ」
地上で記憶した大量の書物をシルビアが持参してた
『これが袖の下だと?……全然足りないな。まあ受け取っておくか。さっさと戻ってこい』
少し機嫌がよくなった思念にカイルは笑った。ディム・トゥーラも結局は研究馬鹿の一人なのだ。
シルビアが降下して三日が過ぎた。手当した人々に問題がないことを確認したので、これから観測ステーションに帰還するのだ。
すぐに帰還するかと思っていたが、カイルの消耗が激しかったので、シルビアは念のため、と三日ほど滞在をのばした。
「地上の重力影響をなめすぎです」と彼女に長々と説教をされた。説教に始まり説教で終わる
聖堂のそばにファーレンシアとセオディア・メレ・エトゥールが現れた。今日はこのあたりに誰も近づくな、と通達を出したらしい。おかげで静かに別れを告げることができる。
カイルとシルビアは見送りにきた二人に挨拶をするために近づいた。
「カイルを
「こちらも五十三名の生命を助けていただいた。エトゥールを
「無事に帰ることができるのは、貴方達のおかげだよ。ありがとう、ファーレンシア、セオディア」
カイルは一枚の
ステーションでも描いた初めて出会った時の少女の姿絵だ。
「いい絵だ」
セオディアは感心した。
「……シワはありませんね」
ファーレンシアが小声で二人だけに通じる冗談を飛ばし、二人で笑った。
「……お元気で」
少女は涙をこらえ、カイル達を笑顔で見送ろうとしていた。
なぜだろう。胸が痛い。
立ち去ることの寂しさが押し寄せてきた。
カイルはあたりさわりのない言葉を探したが、結局素直に自分の気持ちを述べた。
「ファーレンシア、君に出会えてよかった」
少女はその言葉に泣き笑いの表情を浮かべた。
カイルとシルビアは
その時、雲一つない青空に青白い光が走った。
全員が振り仰いだとき、その光は地上に落ちてきた。落雷と称してもいいかもしれない。
スパークしたのは精霊樹のそばの地面だった。
だが、そこには普段ないものがあった。シルビアが使用した
え?
帰るべき二人は青ざめた。
えええええ――っ?!!!!
土煙がやむと
少し離れた場所でこの国を統べる兄妹は突然の自然現象に呆然としていた。
「……お兄様」
「……なんだ?」
「……私の
「大丈夫だ、ファーレンシア」
セオディアは告げた。
「私も同様のことを願った」
ファーレンシアは思わず横に立つ兄を見上げた。
「だが、このことはしばらくあの二人に黙っておくように。これはエトゥールの領主として命ずる」
「はい」
どこからか現れた精霊鷹が、大混乱の天上人達の頭上を正確に3回旋回すると、澄み渡った大空に羽ばたいていった。
――その日、エトゥール城の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます