12人の瓦落多

@Irisu2

プロローグ


 雲ノ時 創次郎

 魔術界で彼の名を知らぬ者はいない。

 彼は1598年の雪の降る日に奇跡を造ったのだ。


 その奇跡を後世の者達は魔術式と命名した。

 彼はその無数の奇跡を自身の身内や、気に入った者などに譲り渡した。


 その度に彼は、必ずと言っていい程この言葉を口にした。


『これはお前さんの心の映し鏡だ。使う時は自分の思いに従いなさい。絶対に信用する者以外に他言してはいけんぞ』、と


 人の良さそうな笑みを浮かべてその言葉を授けたという。


 そして、2005年に同等の知名度を誇る魔術研究者がいた。


 彼の名を 雨宮 从造


 試行錯誤の末、人工生命体を造り出すのに成功し、更にはその量産をも成功させる天才だった。


 彼の輝かしい功績は魔術界に瞬く間に轟いて行き、皆はそれを称賛していた。


 だが宙に浮いた球のように彼の栄光は急速に失墜していく。


 五年後の2010年に彼の研究所が大爆発を起こしたのだ。


 彼は行方不明になり、爆発痕からは爆発の原因らしき物はおろか、人工生命体の焼死体すら発見されなかった。


 そしてこの事件を皮切りに彼の保持する研究所全ての人工生命体達は、まるで最初からいなかったかのように消えていた。


 これを受け、魔術界のトップであるMTC(東京都魔術協会)は世間に魔術が露見することを危惧して、脱走したと見られる人工生命体ホムンクルスの掃討を全魔術師へ命じた。


 だがホムンクルスは一向に見つかることはなく、ただ時間が過ぎて行く。


 ━━━━━はずだった。


 ある日、ホムンクルスが数名生け捕りにされた。


 そのホムンクルス達を解体し、身体の中を見ると様々な情報が転がり込んで来る。


 どれも魔術師からすれば福音と言える情報の数々だったが、あえてその中から3つ選ぶとすれば擬態能力に高い戦闘能力を有していること。そして、味覚がないことだ。


 MTCはこの対策に対ホムンクルス掃討部門を設立したが、近年作られたということもあってまだ目星い成果は得られてはいない。


 ただここでMTCは違和感に気付く。


 MTCも馬鹿ではない。魔術という未知の力を400年以上も全世界から隠蔽し続けてきた賢者の集まりだ。


『何者かが我々に妨害行為を働いている』


 その答えにたどり着くまで、さほど時間を労することはなかった。


 だが彼らは気付けるのだろうか?


 MTCの最大戦力である六大魔術師が一人、


「宵ノ宮 灯翠の養子の正体に、ね」


 誰かの声が何処とも知れぬ部屋の中で木霊していた。














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