14歳の選択 僕はクマノミになりたい
チェシャ猫亭
第1話 パパは女の子だった
「パパは昔、女の子だったんだよ。自分の体がイヤでイヤでしょうがなかった。
なんで男なのに、スカートトをはかなくちゃいけないの?
親たちは、おまえは女の子じゃないの、と、とりあってくれなかった。
大きくなったら、きっと男の子になれる、と待っていたけど、そうは、ならなかった。スカートをはかないことで抵抗はしたけどね。
12歳になったある日、パパは道で、カッコいい男の子に出会ったんだ。あんな男子になりたいなあ、とじっと見つめてたら、あっちもパパのことを見るんだ。
その子は、パパに話しかけてきた。
『あなたみたいなかわいい子に生まれたかったな。私、本当は女子なんだ』
『僕も、本当は男。君みたいな男子になりたい!』
パパとその子は、お互いの姿に、なりたい自分を見て、どんどん仲良くなっていった。初恋だったんだ。
ふたりは14歳の時、婚約した。それから、夢がかなって、パパは男に、その子は女になって結婚した。
そうして生まれたのが、
話し終えるとパパは、やさしく星を抱きしめた。
(ヘンなの。パパはパパだし、ママはママでしょ。女だったとか男だったとか、何のこと?)
小さかった星には、それは、おとぎ話としか思えなかったのだ。
2101年、9月1日。
星は、中学2年になった。特に目立たない、どこにでもいそうな少年だ。
学校から戻り、自分の部屋に入ると、いつものようにゴーグルを装着する。
目の前に、姉の真昼が現れた。肩にかかる豊かな髪、温和な顔立ち。やわらかそうな、ぽっちゃりした体。ブルーグレイのワンピース姿だ。
「ただいま、マーちゃん」
「お帰り、星。学校、どうだった。今日から2年生だね」
「うん。今日は始業式と、新しいクラスの顔合わせくらい。担任は去年と同じ、
「そう。先生、美人だっていってたよね。前のクラスの子はいた?」
「
室内は海中と化し、星の大好きなクマノミが、仲良しのイソギンチャクとともに出現、部屋いっぱい、元気に泳ぎ回る。大きいのや小さい子たち、それぞれにカラフルだ。イソギンチャクも濃い青や、クリーム色、食指も長いの、短いの、と様々。
「クマノミになりたいなあ」
いつもと同じことを、星はまた、つぶやいた。
オレンジ、黒、白の縞模様のカクレクマノミが、イソギンチャクに身を任せて、ゆらゆら揺れている。星が、いちばん好きなクマノミだ。
悩みなんか何もなく,イソギンチャクのゆりかごに揺られるクマノミが、うらやましかった。
「元気ないね、星」
真昼が心配そうに声をかける。
いつもこうして僕を見守ってくれた、と星はなつかしく思い出す。
「マーちゃん」
甘えたくなって伸ばした手は、真昼の体をすり抜ける。星が想像した姿だから仕方ないが、いつも悲しくなってしまう。その上、今日は姉が、いつもより小さくなった気がする。
「マーちゃん、縮んだ?」
真昼は首を横に振り、
「星が大きくなったんだよ」
寂しそうに笑った。
そうだ、もうすぐ僕は、マーちゃんと同じ、14歳になるんだ。来年には僕の方が、背が高くなるのかな。
いまの姉は、最後に星が彼女を見た、4年前の姿。
星はますます悲しくなり、ゴーグルを外してしまった。何でも望みのものを見られる便利なツールだけど、現在の姉の姿を、星は想像することができない。
9月4日。
今年度初めての、性教育の時間。
クラスの男女20人が、壇上の女性教師に注目する。
「みなさんは、今年度中に14歳になりますね。いよいよ選択の時期がやってきました」
担当するのは、星の担任でもある、渚先生だ。20代後半で、ちょっとセクシー。タイトスカートが良く似合う。
「俺、来月,『チェンジ』します!」
立ち上がったのはクラス一の美少女、
教室中を見回し、
「カッコいい男子になるから、女子は期待してて」
その言葉に、ちょっとだけ、女子がざわついた。
「そう。瀬名は、もうすぐお誕生日なのね」
目を細め、先生が瀬名を見る。
「長かったあ、やっとだよ。早く男になりてえ!」
「わかるわあ、その気持ち。先生も『チェンジ』したから。瀬名とは逆で、男から女になったんだ」
また少し、教室内がざわめいた。先生も経験者であることを、知らない生徒がいたらしい。
「『14歳の選択』、簡単に『チェンジ』ともいいますが。この制度ができたのは、2066年。今から35年前のことです」
渚先生の授業が、ようやく始まった。
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