第10話 魔石採掘③
アネモネの背負う袋が7割程満たされた辺りで魔石に引き寄せられ遭遇する魔物が増え、シェリー達の消耗が目立ち始めたので採掘は終了した。
「うわっ、まだ日が高いわね」
四人は日の光に眩しそうにしながら坑道を出る。
日は未だ真上から少し傾いた程度でまだ日は高い。
「何だか丸一日採掘してた感覚だったよ」
「この時間なら部屋が残っていると思いますし精算をして早く今日の宿を探しましょう」
「ごっはんー!」
魔石ギルドへと向かい採掘した魔石をギルドに渡すが、魔石の量が多い為に査定に時間がかかりアネモネ達はしばらく待たされた。
「…………しまったわ。アタシとした事がとんでもない事を忘れてた」
待っている時にふとシェリーは重要な事に気付く。
「とんでもない事って?」
「はあ?何を忘れてましたでしょうか?」
「?どうしたの?」
他の三人はシェリーが何に気が付いたのか察せず首を傾げる。
「決まってんでしょ?報酬の配分よ」
「へ?ああ!?」
「確かに…………忘れてたね」
言われてようやくカインとリリィは声を上げ理解する。
「今までは僕等三人だけでやってきたからうっかり忘れてたけど採掘を始める前に決めておくべきだったね。一時的なパーティーなら組む前に決めなきゃ行けない事だよ」
「下手をすれば死人が出るレベルの大問題ね」
「ひえぇ……皆均等にわけるのじゃダメなのぉ……?」
冒険者での報酬の配分でのいざこざというのは珍しい事では無い。
貢献度に著しく差が有ると言うならば均等に分けたとしても納得しない者も現れる。
そして貢献度やそれをどれだけ反映させるかは各々の主観や価値観によって違いが有る為に至極難しい問題だった。
「いや、アンタがその配分で良いってんならアタシは文句無いけどね」
「うん。役割的に一番危険と負担の多いアネモネが多く貰って然るべきくらいには僕等は思ってるし」
「私達も経済的に余裕が有る訳でも御座いませんからアネモネさんがそれで良いならば有り難いです。本当に人数で等分でよろしかったですか?」
「良いよ!等分でよろしかったよ!」
重ねて確認するリリィにアネモネは即答する。
「決まりね。査定も終わったみたいだし丁度良いわ」
無事報酬の配分の取り決めが終わると同時に採掘した魔石の査定が終わり職員が戻って来た。
「お待たせしました。査定額は七万ドラゴとなります」
「とりあえず今日の宿代と食費を引いても少しは余るね」
「アネモネさんが居なければどうなっていた事やら……」
経済的にギリギリだったシェリー達は提示された額を聞き安堵して息を吐く。
四人は報酬を受け取るとギルドの片隅に場所を変えて報酬を分配する。
「それじゃアタシ達三人は一万五千ドラゴね。文句は無い?」
「あれ?シェリーちゃん、シェリーちゃん。私の分多くないかな?」
「昨日の宿代の分忘れたの?それとあれだけ食べてまったく払わないのは流石にアレだしね」
「貰って良いの?」
「アタシ達が良いってんなら良いのよ。ね?」
「異論は有りません」
「僕も無いよ」
「じゃあ遠慮なく頂いちゃうね」
アネモネ達は分け終えた報酬を懐へとしまう。
「んで」
シェリーはアネモネをじっと見つめて切り出す。
「明日からはどうする?アンタが手伝ってくれるなら今日と同じ様に同じくらい採掘する感じでやるけどどうかしら?勿論明日からは普通に人数分できっちり等分ね」
リリィとカインもじっとアネモネの方を緊張した眼差しで見つめる。
アネモネが断われば初日の様に自分達で魔石を担いで魔物と戦わねばならない。
しかもそうするならば朝から晩まで何度も往復するか坑道の深い場所まで潜って純度の高い魔石を採掘せねばならず、その分危険度も跳ね上がる。
「明日も一緒に行ってくれるの!?やったー!」
アネモネは両手を上げて喜びシェリーへと抱きつく。
「だから抱き付くのは…………って尻尾さわんな!」
「あうっ!?」
どさくさ紛れに尻尾を触るアネモネをシェリーは荒々しく払い退ける。
「うふふっ、では宿を探しに行きましょうか」
「そうだね。お腹減ったし早くご飯も食べたいよ」
アネモネ達は魔石ギルドを出て今日の宿を探しに街を歩く。
「何だ昨日の嬢ちゃん達じゃねえか。今日は四人部屋が空いてるぜ?」
「それは良かった。今日も宜しく頼むわ」
アネモネ達はしばらく街中の宿屋を巡ったが採掘の疲れも有り昨日と同じ宿へと戻ってきた。
「まいど。一人辺り五千ドラゴだ」
アネモネ達は言われた通り各々その五千ドラゴ支払う。
「幾つか他の宿屋を巡ったけど空いてる部屋の中ではここが一番安いわね。何か違いは有るの?」
宿代を支払いながら宿屋の主人へとシェリーは尋ねる。
「他の宿屋は部屋がデカかったり綺麗だったりや飯やらでけえ風呂やらが付いてんだろ。ウチはその辺最低限だから最低価格でやってるから部屋も空きがちだ。その方がラクだしあぶれた客が来るから問題無い」
宿屋の主人は愛想の欠片も無しに答えながら部屋の鍵を渡す。
「そう…………ねぇ皆、暫くこの宿を使うのはどうかしら?採掘に要らない荷物は部屋に置けるし毎日宿を探して回る必要も無くなると思うのだけれど」
後ろの三人へと提案する。
「旅でしか必要ない物も多いし僕は良いと思うよ」
「私も賛成です。宿と食事の心配は無い方が良いですからね」
「私も良いよー!」
シェリーの案に全員賛成した。
「オッサン、今晩借りる部屋をとりあえず明日もう一日も借りても良いかしら?確か続けて借りるなら安くなるのよね?」
「こっちは構わねえ。しかし料金は前払い五千ドラゴだ」
「同じ値段じゃないの!?何でよ!?」
「割引は連泊十日からだ。そういう決まりなんでな」
詰め寄るシェリーを宿屋の主人はさらっとあしらう。
「もう!…………分かったわよ」
仕方無く全員追加で五千ドラゴ支払って部屋に荷物を置くと食事をしに昨日と同じ店へと向かう。
「何だい昨日の嬢ちゃん達か。その顔だと今日は良い感じみたいだね。ほらっ!好きに座りな!」
店に入った途端女将が出迎えて、疲れはしても希望の宿るシェリー達の表情を見て状況を察して席に座る様に促す。
アネモネ達は座り昨日と違い普通の量の注文をして食事を済ませた。
「今日も美味しかったね」
「昨日程では無かったけども充分食べれて良かったわ」
アネモネ達は夕焼け空の下で満足げに宿屋の方向へと歩く。
「アネモネは昨日程は頼まなかったけど足りたの?」
「流石に毎日あんなに食べないよ。前に居た街で多めにお賃金貰ったから昨日が特別だよ?毎日あんなに食べてたらお金が幾らあっても足りないしね」
昨日アネモネが注文した代金は今日魔石の採掘で稼いだ総額とさほど変わらない程だった。
「そうは言ってもエールだけはしっかり飲んでたじゃないの。良くもまああんなにガバガバ飲めるものね」
「いやぁ〜やっぱり働いた後のお酒は美味しいから飲まないと勿体無いよね?」
「僕達は飲まないから分からないかな?」
「そっかぁ。シェリーちゃん達とも一緒に飲みたいなあ」
「一生金に困らないくらい稼いだら毎日付き合ってやるわよ」
「ふふっ、待ってるね」
アネモネ達は部屋へと戻ると疲れも有ってか早々に眠りに付く事となった。
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