第5話 魔石の街エルビス③

 アネモネは更に注文を追加して四人は一心不乱に次々とやってくる料理を平らげていく。

「というかこんな注文してちゃんと支払えるの?」

 いくつもの皿を空にしてようやく四人の食べる勢いが落ち着いてようやくシェリーが口を開く。 

「っぷはぁ!」

 アネモネは何杯目かも分からないエールを飲み干し空のジョッキの底でテーブルを叩く。

「あはは!だいじょーぶ!だいじょーぶ!」

 アネモネは上機嫌に笑う。

「それで三人は何が有ったの?魔石の採掘自体は出来たんだよね?」

 アネモネの質問にシェリー達の動きが止まり表情が曇る。

「あはは…………少し欲をかきすぎてね」

「命が有っただけ良かったと思いましょう」

「あー……あんまし言いたく無いけどご馳走になったし教えてあげるわ」

 シェリー達はこの街に着いてアネモネと分かれた後の出来事を語る。

 アネモネと別れたシェリー達は、宿も取らず真っ先に山へと向かい魔石の採掘をする事にした。

 採掘した魔石の価格はその魔石の純度と大きさによって違い、純度の高い魔石は山の奥へ行くほど純度も魔石の量も多い。

 冒険者ギルドで所持している魔石の純度高く量が多い程に魔物が引き寄せられやすくなるのだと注意は受けていたが経済的に崖っぷちなシェリー達は一攫千金を求めて奥深くへと踏み入れたのだった。

 そしてシェリー達は坑道の奥に踏み入れ純度の高い魔石を大量に得る事が出来た。

 しかしいざ帰路に付こうとした時には辺りは魔石に引き寄せられた魔物達で溢れ返っていたのだった。

「ひえぇ〜!大丈夫だったの!?」

 シェリー達の無謀な行為にアネモネは思わず口を挟む。

「魔物は魔石に引き寄せられているのだから魔石をぶちまければ注意は反らせるのよ」

「半端にぶちまけても意味ないから全部撒くハメになったけどね」

「あの時は生きた心地がしませんでした。あはは……」

 そうして命からがら逃げられたシェリー達だが成果無しに帰る訳には行かず坑道の浅い場所で純度の低い魔石をそこそこに集めて帰還し僅かな報酬を得たのだった。

「魔石を採って帰るだけだと思って油断してたわ。魔石ってめちゃくちゃ重いのよ」

 魔石というのは魔力が染み込んだ石なので当たり前に重い。

 魔石に引き寄せられる魔物だけが驚異ではなく重量の有る魔石を抱えて坑道の出口まで魔物と戦うか逃げなければならない。

「ありゃりゃ、大変だったんだねぇ…………。明日からも頑張るの?」

「当たり前でしょ。それよりアンタこそどうするのよ?何か仕事のアテでも有るの?」

「うぐっ……!?」

 自らの話になりアネモネは言葉に詰まる。

 アネモネがまともにこなせる仕事と言えば力仕事くらいだ。

 しかし当初の目的だった魔石採掘は魔物との遭遇が不可避だ。

 探せばアネモネ向きの力仕事が有るかもしれないがこの街に来たのは初めてで来たばかりで何も知らないのだからアテなど有る筈も無い。

「が、頑張ってお仕事探さなきゃ…………」

 資金面で言えばしばらくは過ごせるだけの蓄えは有る。

 しかし人と共に生きたいアネモネにとっては、人々の中に居たとしても何もせずにだだそこに居るだけというのは至極つまらなく、酒や料理も味気無く感じて楽しく無い。

 ソワソワと落ち着かない様子のアネモネの方をカインはじっと見つめていた。

「カインったら黙ってアネモネばかり見てどうしたのよ?もしかしてアネモネに惚れでもした?」

「まあ!それは仲間として把握しておかねばなりませんね!どうなのですかカインさん!」

 シェリーは冗談混じりにからかい、リリィは目を見開いて楽しげにカインに詰め寄る。

「えっ!?いや〜私そういうのはちょっと…………」

「あらあら……フラれちゃいましたね。ちなみにアネモネさんはどの様な男性が好みです?」

「ち、違うよ!ちょっと思い付いちゃった事があってさ…………」

 カインはそれを慌てて否定する。

「思い付いた事ってなにか私に関係有る感じ?」

「うん……」

 カインは頷き、少し言いづらそうに続ける。

「その……アネモネって自分の身体より大きな鞄を担いでても辛く無さそうにしてるよね?それで僕等は今日魔石の重さとそれを担いだまま魔物に対処しないと行けなくて苦労したよね?」

「……ははん?なるほどね」

「あの……それは…………」

「どゆこと?」

 それを聞きシェリーとリリィはカインが何を考えていたのか察する。

「要するにカインはアンタを荷物持ちにさせたらって考えてたのよ。魔石採掘のね」

「私達の事情で考えると良い案かもしれませんがアネモネさんは魔物とは戦えないのですよ?」

 リリィは咎める様な視線をカインへと向ける。

「分かってるよ。だからこそ言わなかったんだ」

 魔物は魔石に引き寄せられる。

 魔石を一人に運ばせるという事はその運び手が魔物に狙われる危険が容易に想定出来る。

 魔石を担いでいる時点で戦うどころか動くのさえ困難なのだから今日会ったばかりの相手に頼める事ではない。

「魔石を運ぶだけで良いんだよね?」

 しかしアネモネは目を輝かせた。

「は?アンタちゃんと話聞いてた?」

「魔物は魔石に引き寄せるられるのですよ?それはアネモネさんが魔物に狙われるという事です」

「うん。でも守ってくれるんだよね?」

 アネモネ自身が命を奪う事が掟に反するのであってただ側にいるだけならばなんら問題は無い。

「勿論全力で守るけど本当に良いのかい?」

 まさか乗ってくるとは思ってもみなかったカインはアネモネに念を押して確認する。

「うん!あ、でもいざという時になっても私は皆を抱えて逃げるくらいしか出来ないよ?」

「上等過ぎるくらいよ。どうする?」

 シェリーはカインとリリィへと尋ねる。

「言い出しっぺの僕はアネモネが良いというならば反対はしないよ」

「私も異論は御座いません」

「決まりね!明日からじゃんじゃん稼ぐわよ!」

「おー!女将さーん、お仕事も決まったからエールをもう一杯!」

「はいよぉ!」

 すぐさま空のジョッキが下げられ、並々注がれたジョッキが入れ代わりに置かれる。

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