第3話 魔石の街エルビス①

「ところでシェリーちゃんて獣人だよね?そのお耳としっぽの感じだと…………犬の獣人かな?」

 街へと向かう道中、アネモネはシェリーのくるりと巻いた尻尾へと手を伸ばす。

「だから何よ?リザードマンだって獣人でしょうがっ…………なに触ろうとしてんのよ」

 シェリーは不機嫌そうにアネモネの手を払う。

「とっても可愛いね!!触ってもいい!?」

「触ろうとしてから言うな!…………って何コイツ!?力つよっ!?」

 なおも手を伸ばすアネモネの手を掴んで止めようとするがアネモネの圧倒的な力に押されてシェリーは大きくのけぞる。

「しつ……こい!」

「うきゃあ!?」

 尚も迫るアネモネにシェリーは耐えかね杖でアネモネの腹を突く。

「大丈夫ですかアネモネさん!?」

「シェリー、少しは加減を…………」

「し、知らないわよ!コイツが迫ってくるから!」

「うぅ…………ごめんねぇ」

「何なのよ一体…………で?アンタは何しにエルビスの街に向かってんのよ?」

 シェリーは突かれた腹を擦るアネモネに問う。

「エルビスの街は魔石の鉱脈があるって聞いたからやっぱり採掘の仕事かなあ?私こう見えて力仕事得意だし!」

 アネモネは自信満々な様子で細い腕で力こぶを作るポーズを取る。

「アンタが力仕事得意なのは見りゃわかるわよ」

 シェリーはアネモネの背負う巨大な鞄を眺めつつそう答える。

「僕達も魔石掘りの仕事をしに行く予定だよ」

「へ?冒険者なのに魔石堀りするの?」

「アンタ何も知らずに来たっての?」

 キョトンとして子首を傾げるアネモネにシェリーは呆れる。

「街の向こうに見えるあの山の中に潜って魔石を採掘するのですがその山の中には魔物が大量に住み着いているのです。なので採掘するのは魔物との戦いに慣れている冒険者が大半らしいですよ?」

 リリィは遠くに見える街の後ろにそびえ立つ山を指し示す。 

「管理してるのも冒険者ギルドがって聞いたしね」

「ええ〜!?私魔物と戦うなんて出来ないよお……」

 掟のせいでアネモネには魔物の命を奪う事は出来ないので襲われても逃げる事しか出来ない。

 だが先程の様に広い場所で一匹になら兎も角、狭い場所で複数の魔物に襲われては逃げるのも難しい。

「最低限調べてから来なさいよ。抜けてるわねアンタ」

 それから雑談しながらも歩みを進め四人はようやくエルビスの街へと辿り着いた。

「なかなかでっかい街ね。アタシ達の村の数百倍立派だわ」

 シェリーは重厚な城壁と巨大な門を見上げ呆気にとられる。

「魔石の採掘で発展した街だから人も物もいっぱい集まってそうだね」

「じゃあ美味しい物もいっぱいあるかな!?」

 四人が門へと向かうと門番がアネモネ達を迎える。

「エルビスの街にようこそ!君達は何をしにこの街を訪れたのかな?」

「あ、はい。僕達は魔石掘りの仕事をしに来ました」

「ではあちらで手続きを済ませてくれ。入門料は一人につき千ドラゴだ」

 ドラゴとはこの世界で広く使われている通貨だ。

 竜の姿と数字が刻印がされた貨幣で上から十万、一万、千、百、十、一と種類が有り貨幣に刻まれた数値と材質によって区別されている。

「うわ……ここに来て手痛い出費ね」

 しかし払わない訳にもいかないので簡単な手続きを済ませて入門料を払う。

「君達は魔石の採掘に来たのかい?」

 門番は四人の格好を見て言う。

「はい。といっても私達三人でこちらのアネモネさんは別らしいのですが」

「山の麓に冒険者ギルドがある。そこで採掘の手続きは出来るから行くと良い」

「分かりました。ありがとうございます」

 リリィは頭を深々と下げ門番に礼を言う。

「さあ、魔石採掘の街エルビスへようこそ!」

 四人は門番に促されエルビスの街へと入る。

「無事に街に着いたけど僕達これからどうしよっか?」

「早速魔石で一稼ぎしなきゃでしょ?食費はともかく宿を取れる程のお金は怪しいわよ」

「そうですね。アネモネさんはどうなさるのですか?」

「う〜ん……魔物と戦わなきゃダメなら私には無理だし何か別のお仕事探そうかなぁ」

「そ、じゃあここでお別れね」

「うん!送ってくれてありがとね〜」

 アネモネはシェリー達と街の入り口で分かれた。

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