第16話 焦らしプレイでハートを掴め(掴みたくない)

 代紋だいもん先生から、魔王軍の現状と真実を聞かされた俺は思わず聞き返していた。


「え、じゃあドノエル達が俺を追い出したのって……」


「君の顔を見てるとどうしてもプリンが食べたくなるから、プリン断ちのために断腸の思いでやったと言っていたな」


「そんな……!」


 それを聞いて、俺は手伝いを頼んでいたカロンを見る。

 彼女はよだれを垂らして、物欲しそうな顔で菓子を見ていた。

 俺の視線に気が付くと、あわててよだれを手でぬぐって口笛を吹き始める。


 かつてアスティが言ってた言葉を思い出した。



『我ら魔族は別に怒り心頭になっても、目から血など流さないが? 逆にあまりの悲しみが究極になった時に、血の涙を流すぐらいなのだが』



「カロン、お前らは……」


「な、なによ。手伝った報酬だからってプリンなんて要求しないわよ?」


「いや、そもそもプリン食べたらあかんのやろがい」


 それを見て代紋先生は、言うべきことは言ったとばかりに背を向けた。

 俺はその背中に向かって叫ぶ。


「ちょっと蒟蒻こんにゃくゼリーを応用した低カロリープリンをつくってみるッス! 皆にはそう伝えて欲しいッス!」


 先生はこちらを振り返ることなく、片手をあげてそのまま去っていく。

 ようやく品評会の警備員役らしき人間たちが、こちらへ向かってやって来た。



*****



 マシュウ王女はその姿を見て胸に安堵あんどの思いが広がるのを感じた。

 品評会の会場を仕切る簡易の門を押し広げて、彼がやって来たからだ。


「じゃすと あ もーめんと!」


 入場一番に、彼が──ショウタが言ったセリフ。

 彼女が聞いたこともない言葉だ。

 周囲を見回すと皆同じ思いだったようで、会場内の人間がみんな反応に困っている。


 静まり返る会場。


 沈黙にいたたまれなくなったショウタはせき払いをひとつ。

 隣にいた魔族の少女に声をかけた。


「あー……カロン、さっき代紋先生に言ってた低カロリープリンは、品評会が終わったらすぐに作って魔族領に届けるから」


「え、そんなにすぐに出来るの!? 分かった、皆に伝えとくね!」


 ショウタに向かってそう返事すると、その緑髪のスレンダーな体つきの魔族の少女はふわりと空中に浮かぶ。

 そしてフッと姿がかき消えると、気配も同様に消えた。

 それを見た、太った眼鏡をかけた男が──ブルエグがとがめる。


「キサマ! この若造が! 魔族とも内通して我が国の情報を魔族に流しておるのか!!」


 ブルエグの言葉に顔をしかめるショウタ。

 表情を消した顔ですぐに言い返す。


「は? アンタの自己紹介か? 帝国と内通してるとうわさのブルエグ


 しかし王家専従料理人を束ねる料理人頭をつとめる太った男はそれに激昂。

 ある意味、その反応こそが語るに落ちている状態であることに気付かずに。


「ここここの……! む、無根拠な噂でわしおとしめるとは、は、恥を知れ!」


 しかし彼にかけられる制止の声。


「もう良い、ブルエグ」


「お、王!? し、しかし」


「良いのだブルエグ。先ほども言ったように、儂も彼の菓子を食してみたい」


「ぐぬ……わ、分かりました」


 しかしそこで名案を思い付いたという表情になるブルエグ。

 ニタリと笑うとショウタに言った。


「ふははは残念だったなショウタとやら、もう予選の調理時間は終わっておるのだ! 今から菓子を作る時間などもう無くなっておるわ!!」


 ショウタを指差し、勝ち誇って馬鹿笑い。

 どこから取り出したか、扇子せんすを取り出しパタパタあおぐ。

 そしてワザとらしくくやし気なセリフを棒読みで叫んだ。


「参加させてやりたいが、提出する菓子が無ければどうにもなるまい! あー残念だなー、参加させてやりたいけどなー!」


「ふーん、あっそ」


 その言葉を発すると同時に、ショウタの手元からいくつもの物体が飛び出していく。

 彼が持つ投擲チートスキルだ。

 その物体が正確に会場の審査員の口の中にすっぽりと収まっていった。


「ほわあああああん(はぁと)」


 口の中に突っ込まれたみたらし団子を味わった審査員。

 気の抜けたような声をあげると、背景に花吹雪を背負って空中に舞い上がる。

 中年太りのオッサンたちが。

 その後、次々と地面に落ちると「はふん、素敵な味w」と呟いて動かなくなった。


 控えスペースに居たラクリッツが「うわ最悪。見たくない光景だわ~」と小声で言ったが、他の観客もさすがにきっと彼女と同じ思いだろう。

 書いている作者の精神も傷ついた気がするが、気のせいにして話を進めることにする。

 マシュウ王女は表情を変えずに成り行きを見守っている。さすがである。



「さあどうぞ、王様」


 いつの間にか皿に盛りつけたみたらし団子を片手に、王様のすぐそばに立ってたショウタ。

 手に持った皿を目の前に出され、その香ばしい匂いに思わず生唾を飲み込む王。

 それでも恐る恐るフォークで突き刺し口に入れる。


 みたらし団子は串に刺してるほうが美味しい気がするが、そこはTPOというもの。

 団子を口に入れてモグモグと顎を動かした王は、カッと目を見開いた。


「こ……これは! これはっ!! 美味うーまーーいーぞおおおおおおっっっ!!」


 突然むきむきと王様の筋肉が発達して上半身の衣装がビリビリと破けていく。

 どこかの、戦った相手をすでに死なせる北斗な拳法家のように。

 目と口からビームを出しながら筋骨隆々きんこつりゅうりゅうになった肉体に、ボディビルダーのようなポーズをつける王様。


「ショウタくん、予選・突破ぁぁぁーーー!!」


 最後はそう叫びながらショウタを指差し決めポーズ。

 それに慌てたのはブルエグ。

 豊か過ぎる腹を揺らしながら王様に申し立て。


「お、王様!? 私がまだ食レポしてませんが!?」


 食レポ言うなし。

 そんなブルエグにショウタが意地の悪い笑顔のドヤ顔で言った。

 めっちゃ棒読みで。


「あー悪いねーブルエグさまー。今の王様に献上した分で団子は最後だわぁ。最初から出場してれば、王様が来る前に団子食べれたかもしれなかったのになー。あー残念だなー」


「にゃ、にゃんだとおおおおおお!!??」

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