第4話 ハロー、アナザーワールド

今回と次回はショウタとアスティが出会った過去話になります。



*****



「待て翔太! お前はこのまま和菓子の修行をした方が良い! 考え直せ!!」


「うるせえ、俺は洋菓子を作るんだよ! クラスの女子みんな、マカロンとかタピオカみたいに洋菓子しか食べないんだぞ!」


「この分からず屋め、出てけ! お前はもうウチの子じゃねえ!!」


「こっちは元々そのつもりだったんだよ! そう言われて逆にせいせいすらぁ! あばよ、盆と正月とゴールデンウィーク以外もう帰ってこねえからな!!」


「翔太ああァァァァ!!」


(そして流れる悲しげなメロディ)


 ──思えば、これがキッカケだった。

 その後しばらくしてから、この世界に飛ばされたのは。





「……あれ、ここはどこだ?」


 気がつくと俺は見知らぬ森の中にいた。

 隣には、普段お世話になっている代紋先生が倒れている。

 確かさっき、俺にはトラックが突っ込んで来ていて……。

 俺は頭が混乱したまま、代紋先生を揺り動かした。


「先生、代紋先生おきてください!」


 その時背後でうなり声のようなものが聞こえる。

 明らかに友好的とは感じられないに、ギクリとなって振り返る俺。

 そこには緑色の肌の明らかに人間とは違っている、二足歩行をする生き物が居た。

 手には棍棒のような物を持っている。


 まさかこれって、そんな作り話みたいな……。

 頭の片隅でチラリと考えながら、その辺に落ちていた木の枝を俺も拾って構える。

 格闘技も剣道もやったことが無かったが、見よう見まねだ。

 もしこれが俺の想像している通りなら──。


「うおおおお!」


 バキッ!


 普通に棍棒で殴り飛ばされた。

 ま、そうそうラノベみたいなご都合主義チート展開がある訳ないか。

 ……などと冷静に考える余裕など無く、俺は「ぐおお!」とうめきながら殴られた箇所を押さえ、のたうち回った。

 緑の肌の化け物が、そんな俺をあざ笑いながら棍棒を振り上げ……。


「こら、私の患者に何をする」


 後ろから声をかけられて振り向く化け物。

 すぐにバキャッという音と共にその巨体が吹っ飛ばされた。

 見ると顔面は完全に陥没かんぼつ

 見上げると、そこには殴った犯人(?)の代紋先生。

 先生は、化け物の血にまみれた自分の握りこぶしを呆けたように見つめていた。


 その先生の後ろから迫る別の緑の化け物。

 俺は咄嗟とっさに足元の小石をつかんで投げた。


「危ない代紋先生!」


 石は化け物の顔面にクリーンヒット。

 しただけでなく、当たった衝撃で頭部丸ごと爆発するように砕け散った。マジかよ!?

 そのとき脳裏にピコーンという音が聞こえたかと思うと、視界に文字が浮かぶ。


【射撃レベルが上がりました! LV-0 → 1】

【隠密レベルが上がりました! LV-0 → 1】


「げっ! そんなこと無いわと思ってたけど、やっぱり異世界転移チートだ!」


「やはり君もか。私も筋力レベルが上がった、と目に表示されたよ」


「え、代紋先生もラノベ読んでたんですか!?」


「学生時代に何冊か夢中になった事はある」


 と、俺たち二人の後ろからさらにガサガサと音がする。

 振り返ると化け物が追加で五体も現れていた。

 代紋先生が少し焦ったように俺に言う。


「翔太くん、少しまずいぞ。私の戦闘向けの能力は、さっきの筋力増強しか無いらしい。他には医学知識と防御結界しか項目が見当たらない」


「じゃあその防御結界を──」


「すでに使おうとしたが、非戦闘時にしか張れないという説明文が出てる。身体も戦うために動かせるようには思えない。ちなみに私は、武道も格闘技も一切やった経験は無い」


「俺には射撃と隠密ってのしか無いッス。さっきの石みたいに、投げられそうなのがもう無いッスね。もしかして結構ヤバいッスか、俺たち?」


「かもしれん」


 その時、どこからともなくりんとしたすずやかな声が聞こえた。


「失せろオーガども」


 ゴゥッ!!


 俺たちの目の前で、突然化け物どもが火に包まれて燃え上がる。

 あまりに突然過ぎて、俺たちどころか化け物さえも声ひとつあげられず黒焦げになって倒れた。

 呆然ぼうぜんと立ちくす俺たち二人の前に、化け物の残骸の後ろから一人の人影が現れる。

 どうやらコイツが化け物を燃やしたらしい。


「む? 魔王討伐に来てみれば、こんな魔王城の敷地の中で一般人とは。何者だ君たち?」


 赤くてつややかな長髪に中性的な美貌、そして黒くいかついデザインの鎧に身を包んだ美剣士。

 まるで少女マンガから抜け出てきたようなルックスの男、それが俺たちとアスティの出会──。


「いや、そんなことよりもだ。美味うまそうな匂いにつられてこちらに来たのだが、その箱からこの匂いがしているのか?」


 と、俺たち二人の後ろを指差す剣士。

 振り返った俺たちの目に飛び込んできたのは。


「あれ? 俺が手に持ってたプリンの箱じゃん」


「くれ」


 こうして俺たち二人は、アスティの餌付けに成功……いや、アスティと知り合ったのだった。



*****



「そうか、もぐもぐ……。どうりでオーガチャンピオンの、パクパク……。縄張りの真ん中で、ムグムグ……無傷で立ってると思った。ぷはぁ、ごちそう様でした」


 一心不乱にプリンを口にかき込みながら、俺たちの話を聞いたアスティの返答がコレ。

 見知らぬ人間が持っていた見知らぬ食べ物を無警戒に食べる……大丈夫かコイツ?

 アスティを加えた俺たち三人は、代紋先生が張った防御結界の中で座って話し込んでいた。

 いや、アスティだけは食事していた。

 正座で。


「美味いな、この食べ物! こんな舌触りが滑らかでとろけるような食感の甘い食べ物は生まれて初めてだぞ!!」


 と、顔に満面の笑みを浮かべて俺たちにそう言ったアスティ。

 うお、こんな笑顔で俺のプリンを食べてくれたら、男とか女とか関係無く好感度が上がるじゃねえかよ。

 この男となら親友マブダチ(死語)になれそうな気がする!


 なんでもこのアスティという男は、だ。

 自分の私利私欲に走り圧政を敷き周辺諸国に戦争をしかけて民衆を苦しめている『魔王』と呼ばれる男を、倒しに来たらしい。


「なるほど、お前は魔王を倒しに来た勇者だったのか」


「勇者? それは人間族の概念だな。我ら魔族はみんな勇敢な者たちばかりだぞ?」


「魔族って……お前、人間じゃないのか!?」


「ああそうか。私は見た目が人間族と変わらないタイプの種族だからな。キミが間違えるのも無理は無い」


 プリンを食べ終わったアスティは両手を合わせて「改めてごちそう様でした」とつぶやく。

 そして正座しながら俺たちを見ると、真剣な目で語りかける。


「どうやら君たち二人は、伝説の『転生チート勇者』というヤツみたいだな』



 そうアスティは言うと、前のめりになってバッタリと倒れた。

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