御伽法廷~連続強盗殺人事件

水原麻以

御伽法廷~連続強盗殺人事件

何か言い残すことはないかと言われ彼は激しくかぶりを振った。最後の晩餐も用意してあったがもちろん箸は置いたままだ。

「本当にいいのか?」と念を押され彼はしばし考え込んだ。

そして「みんなに伝えてくれ。『むやみやたらに拾うな』…それだけだ」

そうか、と傍らの男がうなづいた。そして彼を労った。

「長かったな」

「先生こそ…お世話になりました」

彼は深々と頭をさげおとなしく目隠しをされた。あとはなすがままに階段を昇った。

三本の腕がさっとのびた。そして躊躇うことなくほぼ同時に突起を沈めた。


どうしてこうなった。



彼の罪状はおびたたしい。それが公判を長引かせる理由になった。

最たるものは連続強盗殺人。そして犯罪収益の分配だ。横領の組織犯罪に加担した者たちも裁きを受けた。

とは言え被害者たちに落ち度がなかったわけではない。たった一人による襲撃を許してしまった点はわきが甘すぎると遺族たちも認めた。

それでも情状酌量の理由にはならない。女子供を含めて全島民百八人が惨殺されたのだ。

被告側は被害者の違法性を論点にした。確かに強制執行のやり方に問題はあった。反社会的勢力と知りながら臨時地方公務員に採用した国にも責任がある。物納を怠った村落も同様だ。だがそうでもしないと公平性が担保されないのだ。

ましてや違法に飼育したワンマンアーミーをけし掛けるなど言語道断だ。


殺された者たちは公務員として服務しただけのことだ。

何も命まで奪うことはないだろう。訴訟という非暴力的手段がちゃんとある。


公判が長引いた理由は他にもある。

共犯者の人格を認めるか否か。市民団体まで抗議に加わった。

法学者や海外の専門家を交えて喧々諤々の末に主犯の犯罪教唆を公判前整理手続きで省くことになった。

遺族は早期終結を望んでいる。


他にも誰が川に自走型タイムカプセルを投げ込んだのか、超成長ホルモン剤を団子に投入した者は誰か、謎は尽きない。

ただそれらの余罪は百八名惨殺という大事件の前にかすんでしまう。


地下室で医師が執行完了の確認と時刻を告げた。被告は荼毘に付されたが受取人はいなかった。唯一の肉親はとうに他界している。


「やっと…終わったんですね」

事件の経過を知らされ。遺族は目に涙を浮かべた。



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御伽法廷~連続強盗殺人事件 水原麻以 @maimizuhara

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