死神草子(Once Upon A Time)

@ayumi78

死神草子(Once Upon A Time)

仕事で久しぶりに来たこの街は、あの日からとても様変わりしていた。

まあ、そうだろう、あの時は一面の焼け野原だったから。

街の中心部に生えている1本の大木の枝にボクは腰を掛け、周りを見てみる。

「変わったよなあ。まあ、当たり前か」

地面に降りる、空気の匂いは澄んでいる。

あの時は血と油の臭いに満ち溢れていた。毎日どこかで誰かが死んでいた。

そんな中、ボクは死神として目覚めたばかりで、毎日が必死だった。まだ死神として何をすればいいのか分からず、ただウロウロしては怒鳴られ、だからといってじっとしていたら怒鳴られ……という日々だった。見よう見まねで魂を集めていると「そうじゃないだろ!」と怒鳴られた事もあった。

「ボク、どうしたらいいんやろ」と、ずっと下を向いていたある日、とんでもない事がおきた。

飛行機から、数え切れないほどの爆弾が降ってきたのだ。

みるみるうちに人達が死んでいく。死神も、

「受け持ちだけじゃ対処しきれない!」「ダメだ、これは手に負えない」「とにかく集めないと!」

今思い出しても、あれほどの阿鼻叫喚は見たことがない。さながら地獄絵図だった。

そんな中、「手助けに来ました」と言う声が聞こえた。よその国から来た死神達だ。「助かる!ありがとう!」と、皆が必死で魂を集めている中、「おや、君は?」と声を掛けられた。

「すみません、役立たずが何か邪魔しましたか?」と他の死神が答えようとすると、「誰かこの子に説明しましたか?」と有無を言わせぬ迫力で、逆に質問をしていた。

「説明?何を?」「こっちにはそんな暇はない」とざわめく中、「こういう状況だからこそ、きちんと説明しないといけないでしょう」と、その死神は言った。

その日からボクは、その死神についてまわって、色々な事を教えてもらった。魂の集め方、見極め方、死にたがる人を救う方法……誰もここまで教えてくれなかったから、本当に嬉しかった。拙いながらも魂を集めていると、いつも褒めてくれた。今までは邪険に扱われるばかりだったから、この死神の存在がボクのあり方を決めたと言っても過言じゃない。

しばらくして、応援の死神達が「では、私達はそろそろ失礼いたします」と帰りかける時、再び無数の爆弾が降ってきた。

繰り返される地獄絵図。けれどもボクはもう無能と言われたくない。「君はもう1人前だよ」と励まされ、籠を手に飛び出した。



あれからもう半世紀以上か。と感慨に浸っていると、「何してんだよ」と頭の上から声がする。

「ごめんごめん、今から行くわ」と声を掛け、現場へ向かう。

ここはボクを成長させてくれた街。そして、これからも。

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