妄想の中の千賀一夜物語(2020日本シリーズ第一戦)
てhand
第1話 試合前と一回表裏
僕は、福岡ソフトバンクホークスの育成出身のエース千賀滉大だ。
2020年の日本シリーズ第一戦のマウンドに上がった。相手は二年連続でセリーグを制覇した読売ジャイアンツだった。
強力打線ということで長打や集中打を警戒してマウンドに上がった。
日本シリーズの舞台でマウンドを踏むのは4年連続、通算でも5回は立っている。
だが、何回立っても慣れるものではないし、緊張する。特に初戦というのはシリーズの流れを大きく左右するからだ。
同じく育成出身で同級生同期入団の甲斐拓也捕手(ここから先は拓也)とこう話し合った。
「今日は序盤から飛ばしていこう。点を取ってもらった回は絶対0に抑えよう。キーになる選手は丸さんと岡本だ。そこは絶対しっかり打ち取ろう。相手の菅野さんからはそんなに点は取れないだろうから先に点はやらないようにしよう。」
キーマンにあげた巨人の強打者丸佳浩選手は5番打者で勝負強く選球眼もいい。今期の成績は打率284、27本塁打、77打点だ。2019年の交流戦では、3打数3安打1本塁打と打たれた記憶があっていい印象がない。
岡本選手は4番打者でセリーグ本塁打と打点の二冠王の若き主砲だ
また、ウィーラー選手も2019年に14打数5安打2本塁打と打たれており、リーグ優勝を逃した試合では逆転の2ラン本塁打を打たれた苦い記憶のある打者だ。
投手というのは抑えた記憶はあまり残らないが、打たれた記憶は鮮明に覚えているものだ。成績に表れない部分でも嫌な場面での痛打はそうさせる。
「マイナスなことを考えても仕方ない」
そう考えるのが僕の考えだ。
試合前、規定の5割と定められた16489人の観客が京セラドームを埋め、シリーズの開幕を楽しみにしている中、拓也と遠投キャッチボールを外野で行った。その後、ブルペンで投げた。その時の心情はシークレットだ。
そして、試合が始まった。京セラドームだが、巨人の主催ゲームなので、先攻はホークスだ。
一回表、一番打者は周東選手だ。菅野選手からいい当たりを打ったがショート正面のライナー。2番中村晃選手も三塁へファウルフライ。3番主砲柳田悠岐選手もスライダーを空振り三振し、三者凡退。
この回は正直歯が立たなかった印象だ。
そして、出番がやってきた。マウンドへ上がり投球練習。それが終わり拓也が二塁へ送球しボール回しをした後、対峙するのは巨人の一番吉川尚輝選手だ。パワーもあり塁に出すと抜群の脚力がある左打者だ。
「一回の裏ジャイアンツの攻撃は一番セカンド吉川尚輝」とのコールが響き、胸の鼓動が高鳴り、より緊張感が高まった。
「さあ、こい!!」
「よっしゃ、いくぜ!!」
というアイコンタクトの会話が響き初球を投げた。拓也が構えたのは外角低め。球種はストレートだ。
腕を振った渾身の154キロストレートは、ほぼ構えたところに行った。吉川選手はバットを出し詰まった一塁ゴロに終わった。打ち取った瞬間少しリリースの位置を確認するポーズを取った。
「二番センター松原」
次は松原聖弥選手だ。抜群の脚力があり、小柄ながら意外性のある打撃でボール球でもヒットにする能力のある選手だ。
初球、拓也は外角にストレートのサイン。これは構えたところに行った。結果は三塁側へいい当たりのファウル。
二球目も外角にストレートのサインが出たが、力んでしまい152キロのストレートは松原選手の体の付近へ。
三球目も外角低めへストレートのサイン。157キロのストレートは真ん中高めへ。
四球目は内角へストレートのサイン。しかし、これも力が入って内角低めの完全なボール球となった。
「これでは意味がない。」そう思った。
次は初めてフォークのサインが出た。左打者を何度も手玉に取ってきた伝家の宝刀「お化けフォーク」だ。だが、去年あたりから横変化と球速をアップさせたことで少し落ちは悪くなっていた。
投げた。いいところから落ちたように見えたが、ほとんど反応が無かった。
これでフルカウントになった。
拓也が要求したのは外角のストレート。そこをめがけて投げた。渾身の155キロだったが、少し外に外れてしまった。仁王立ちになり首をひねった。四球である。
「嫌なランナーを出してしまった」
と思った。
「三番ショート坂本」
言わずと知れた球界のスター選手だ。初めて右打者に相対する。
初球は外角低めへストレートのサイン。これも力んでしまい、低めへボール。
二球目も外角低めへストレートのサイン。156キロは少し高くいったけど、右方向に振り遅れのファウル。
「走られたくない」という心理が働いて二球牽制球を入れた。
三球目は初めてカットボールのサインが出た。低めのボールゾーンに行きバットに当てられ自打球となった。狙い通りに追い込むことができた。
四球目もフォークのサイン。前の球のような高さだと上手く拾われる可能性があるので、注意して投げた。インコースへシュートするように落ちた。コースも高さもボールゾーンだったが、振ってくれた。
「四番サード岡本」
さあ、いよいよキーマンを迎えた。絶対抑えるべき相手だ。昨年の日本シリーズでも抑えているとは言え、長打警戒だ。
拓也はインコースへ寄った。構えたコースよりさらに内側へのボール。
バットを真っ二つに折った。捕手へのファウルフライ。拓也が素早く追ってキャッチ。
こうして一回表が終了した。
「ストレートは力んであまりコントロールできなかった部分もあったが、全体的には押せたかな。」と振り返った。
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