第22話 包囲網
イベントも5日目に入った。
「……おっ。このカードいいな。うーんでもデッキに入れるかどうか迷うなぁ……」
デッキの方も、完成とは言えないだろうが、戦うには十分になったと言えるだろう。
だが、それは他の生徒達もそうだ。イベントにしっかり参加していれば、ゴールドはともかくパックはある程度手に入る。少しずつ周りのレベルも上がって行き、デッキパワーだけでは勝てなくなっていくだろう。
より、相性やプレイングを考えていかないと……。
「楽しそう」
「……え、そ、そうかな」
奈津に奏星と同じ事を言われて、昨日の事を思い出してドキリとする。
最近はなんだか、カードゲームをするのが当たり前になりつつある。
最初の方は陰口を叩いていた周りの生徒達も、今は俺がプレイしていても何も言わない。それどころか。
「ねぇ国頭君。ちょっといいかしら」
「……え、な、なに?」
突然、以前イベント戦で当たった女子に話しかけられて動揺を隠せない。
だが彼女は気にした様子もなく、
「デッキを見て欲しいの。アドバイスを貰えるかしら?」
そう言ってデッキを差し出してきた。
「……あ、うん。いいよ。……でもどうして俺に?」
「この教室であなたが一番強そうだからよ」
そう言ってランキング表を指差す。イベント戦を勝ち進んでいることもあり、今は所持ゴールドは2500。なんだかんだあってランキング1位。目立つつもりはなかったのだが結果的に首位に立ってしまった。
「あー……うん、いいよ」
他人のデッキにアドバイスするのは、昔はよくやっていたから手慣れたものだ。
それを見て、他の生徒たちも話しかけてくる。
「あ、次俺もいいか?」
「なぁ、そのカードトレードしねぇか?」
なぜか俺の席を中心に人の輪ができてしまった。
なんだか懐かしい。
「イカサマ王(ダーティキング)なんて言われてるから嫌な奴かと思ってたけど」
「別に普通のヤツじゃんか」
それを聞いて、奈津がちょっとむくれていた。
「みんな調子いい。私は最初から知ってた」
「あはは……」
そんな時、遠巻きに見ている小柄な男子生徒がいることに気づいた。
「あれ、彼は……?」
確か、入学式の日もずっと一人で外を眺めていた。今でもそうなんだとしたら、話す相手がいないのかもしれない。
傍にいた生徒が気づいて教えてくれた。
「あいつ?
「……皇浦君?」
「噂ではあいつ、この学園の理事会メンバーの息子らしいぜ」
その言葉に周りにいた他の生徒も反応する。
「じゃあ、コネで入学したってこと?」「まじかよ、きったねー」
そしてヒソヒソと、陰口を叩き始めた。
これにはさすがに顔をしかめてしまう。
自分の過去のイカサマ事件の事を思い出してしまうからだ。
「……待ってよ。T組のみんなは理事長が直接スカウトしたんでしょ? 理事会と理事長は対立してるって聞いたよ。通常クラスならともかく、このT組にコネで入るかな?」
理事会と理事長の確執については、武束が以前言っていた情報だが、彼らも聞いたことがあったようだ。
『たしかにそうだな』と言って納得してくれたようだが、同時に疑問も湧いてきた。
「でも、だとしたらあいつ、どのカードゲーム出身なんだ? 誰か知ってるか?」
俺のやっていた『レジェンドヒーローTCG』の他にも様々なカードゲームがある。
数百万人以上のプレイヤーがいるメジャーなゲームから、百人未満の規模のマイナーなものまで。それに奈津にいたってはTCG出身ですらない。
それらの中で大会に入賞したりといった実績がないとスカウトされないのだから、彼も必然的にそれらのどれかのカードゲームをやっていたことになる。
「まぁ、触らぬ神に祟りなしってやつだろ。放っておこうぜ」
「いや……ちょっと話しかけてくるよ」
俺はどうしても彼の事が気になって、席から立って彼の元に近寄っていった。
「あの、君もよかったら……一緒に話さない?」
「――――」
だが彼は何の反応も示さず、俺の方に目線をくれることもなく、教室を出て行ってしまった。
去り際に、ほんの少し不気味に笑っていたことが、印象的だった。
そう……どこかで見たような。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ともかく、そんなこんなで環境としては悪くないのだけど……同時に、幼なじみに対する罪悪感が沸いてくる。
『もうカードゲームはしない』という約束を何度も破ってしまっている。
「もう土下座じゃ済まないだろうなぁ……」
時間が経てば経つほど言い出しにくくなっていっていく。
はぁ、とため息をつく俺を、奈津が不思議そうに見ていた。
「飲み物でも取ってくるかな……奈津、何か欲しい?」
「レッドブル」
勝負の前だから翼を授かりたいらしい。
この校舎の食堂には無料のドリンクコーナーもある。
こんな時間だというのに珍しく誰もいない。
コンビニの冷蔵庫のように大量に並んだペットボトルと缶の中から、奈津のレッドブルとブラックコーヒー……を選ぼうとしたが結局迷ってコーラを取って持って行こうとした時。
「冗談じゃねぇ!」
大きな声がして、思わずそちらを見る。
「俺様におめぇの下につけってのか? ふざけんのも大概にしやがれ」
「……寺岡?」
一人は俺と因縁のある不良生徒、寺岡だった。
だが、話している相手の姿はちょうど柱の影になっていて見えない。
「キミはあれだけ大口を叩いておいてあの国頭優馬に無様に負けた――くやしいだろう? 憎いだろう? 復讐したいと思わないのかい?」
いつか、どこかで聞いた声だ。一体誰だ?
この学園の人間であることは間違いないのだろうけど……。
「たしかに俺様はあの『イカサマ王(ダーティキング)』野郎に負けたけどなぁ……このまま負けっぱなしじゃ終わらねぇ。いつか必ずぶちのめしてやる。だがよ」
寺岡はギロッと何者かを睨みつける。
「他人の手を借りるつもりはねぇ。俺様の金と、俺様の力。両方合わせて必ず倒す。だから引っ込んでろ」
「――愚かだね」
この、全ての人を見下したような喋り方、やっぱりどこかで……。
「おやおや、そんなところで何をやっているんだい? 優馬殿?」
その時、空気を読まない武束が俺を見てバカでかい声で呼びかけて来た。
振り向いた隙に、何者かは、さっとどこかに消え去ってしまい、誰だったか確認することもできなかった。
そして苦虫を嚙み潰したような顔をした寺岡が残された。
「『
「……えーっと……リベンジなら、いつでも受けてたつ……よ?」
「ぶっ殺されてぇのかお前」
そんなつもりは無かったのだが、煽るような台詞になってしまったせいか、寺岡は顔を真っ赤にして怒ってどこかに行ってしまった。
誰と話していたのか気になったのだが、残念ながらそれを聞けるような雰囲気ではなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
17時になり、今日のマッチングが教室後方の電子掲示板に張り出された。
初日はチーム数もあまり多くなかったのだが、今となってはクラスのほぼ全員が参加している。
カードゲームの対戦が盛り上がるのは非常に喜ばしいことなのだが……それを喜んでいる時点で、なんだか自分を見失っている気がするのは気のせいだろうか。
ともかく、今日の対戦相手は……。
「……2人チーム?」
確かに、『最大3人のチーム』だから、最悪2人でも参加する事はできる。
だが、確実に相手が1人不戦勝になる。2勝しないとチームの勝ちにならないのだから、2人共絶対に負けられないというハンデを背負って戦うことになる。
とはいえ、この2人はたまたま3人目が見つからなかっただけかもしれない。
イベント戦に参加しないと退学になるのだから、やむを得ず2人チームで登録したのかもしれない……。
……だが、何か、おかしい。そんな気がする。
どこかに、わずかに違和感がある。
いつも自分たちのチームの対戦相手ぐらいしか見ていなかったのだが、何の気なしにページをスクロールしていって、ようやく気付いた。
「多い……?」
T組の総人数は42人。普通に考えれば14チームになるはずなのだが。
チーム総数がなぜか16チームもある。これではクラスの人数に対して、チーム数が多すぎる。
慌ててそれぞれのチームのメンバーを確認する。
驚くべきことに、2人チームが6組もあったのだ。
「どういうことだ……?」
1チームや2チーム、人数が足りないということはありえるだろうが、さすがにこの数はおかしい。
まるで、誰かに統制されているかのような。
そんな不気味さがあった。
俺が難しい顔をしていると、奈津が袖をくいくいと引っ張った。
「時間」
「……あ、ああ」
いつの間にか対戦の時間になっていたようだ。
慌てて指定された席に着いて、いつものように頭を下げて挨拶をする。
「よろしくお願いします」
顔を上げると、奈津の席の前が空いていた。
相手は二人チームだから一席空くのは当然なのだが。
俺達のチームは、1.奈津 2.武束 3.俺 という順番で申請した。
相手は1番を抜かし、2番と3番に名前を書いたということになる。
特に深く考えずにこの順番にしたのだが、この並びはイベントが終わるまで変更することができない。
そして普段のランク戦とは違い、イベント戦では全員同時に対戦が開始される。
自分の対戦に集中しないといけないから周りの様子まで気が回らない。
だから今まで気づかなかった。
よくよく周りを見渡してみると、全ての2人チームが、みんな奈津と同じ1番を空けているのだ。
だとしたら、これは。
「……2コスト《[UC]剣闘騎士》を場にだしてターン終了」
「こっちは3コスト《[R]ギルドの騎士封じ》。こいつがいるだけでそっち騎士系のユニットのパワーを下げるぞ」
正面にいる俺の相手は、俺の緑デッキに有利な青デッキ。
武束の相手は赤デッキに有利な緑デッキ。
両方とも、相性が悪い。
「……まずい。2人とも」
もしこれが意図的に仕組まれたものなのだとしたら。
「俺達は、狙い撃ちされている」
こいつらは全員……俺達を狩るためだけのチームだ。
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