第16話 イベント戦
「イベント戦を開始しますッ!!」
「……はい?」
イベント戦。確かにカードゲームは特別なルールで大会を行う事があるが。
ますますDCG(デジタルカードゲーム)じみて来た。
「第1回イベント戦、その名も『チーム対抗華戸杯』!! 今からルールを説明するから静かにねッ」
葉月先生がぱんぱん、と手を叩いて皆を鎮める。
「大会は最大3人1組のチーム戦。期間は明日から1週間の合計7日間。毎日16時にマッチングが発表されて、17時からいっせいに試合開始。チームメンバー3人が同時に戦い、2人以上勝ったチームにチームポイントが与えられるよ。チームポイントが一番高かったチームの優勝ねッ」
3人組でのチーム戦はいたって標準的なルールだ。
色々なカードゲームで採用されているだろう。
「チームポイントはゴールドとは違ってチームごとに与えられて、減ったりはしないけど累計ポイントに応じて賞品が出るよッ」
賞品の一覧表はスマホのメッセージにて届いていた。
2,3勝してもカードパックが貰えるし、もっともポイントが多いチームは1人あたり2000もゴールドが貰える。こうしてみるとかなりお得なイベントだ。
「対戦のマッチングはこちらで行うから、 君たちはその日の15時までに申請が行われていればマッチングに参加できるよッ。ただし、申請時のメンバーの対戦順と使うデッキの色はイベント中変更できないから注意してねッ!! あと、通常のランク戦も並行して行うけど、イベント戦の報酬はおいしいからちゃんとチームを組んで参加してね!」
なるほど。これが先生の言っていた”施策”というやつか。
対戦が半強制的に行われるし、報酬で格差も少しはましになるだろう。よく考えられている。
「ただしッ! イベント終了時点でチームを組めていない人は強制的に退学だから、みんな気を付けてねッ」
さすがにこれにはみな驚きの声を上げた。
単に盛り上げるためのお遊び企画かと思いきや、とんだ罠が潜んでいたものだ。
「強制参加、ボッチには生存権無し、と……」
まず、参加しなければ退学が確定。チームを組んでくれる人がいなくても同じ。
最悪2人でもチームを組む事はできるが、対戦で決して負けられないという厳しいハンデを背負う事になる。
「よう銀雪の女王、俺と組もうぜ!」「いやいや彼女は俺が誘う」「あ? お前じゃ女王の実力に釣り合わねーだろうが」「紙手さん、私と組みましょ!」
ホームルームが終わった瞬間、横の席に座っている紙手さんをチームに誘おうと何人も群がっていた。
彼女はいつも通りの凍ったような冷たい表情を浮かべていたが、ちらちらとこちらを見ていた。
はぁ、と小さくため息を漏らす。
これはまずい。この前の寺岡との対戦以降、ひそひそと陰で悪口を言われることは減ったが、その結果俺はクラス内で腫れ物のような存在になっている。
要は触らぬ神に祟りなし、というやつか。みんな関わりたくない、というのが本音だろう。
中学の時の修学旅行を思い出すなぁ。
あの時は奏星以外の全員から完全に無視され、組む相手がいなかった。
かなり本気で修学旅行を欠席することを考えたのだが、彼女の必死の説得の末、奏星のおかげで同じ班になれたけど。
まぁ旅行中奏星以外からは空気として扱われていたが。滅茶苦茶辛かった。
奏星との約束もあるし、できるだけカードゲームはしたくない。
そんな自分と好き好んで組んでくれる人など……。
「やぁやぁ優馬殿! 僕と組もうじゃないか!」
「……え?」
カード
「はっはっはっはっ。君の腕前はこの前の戦いで見せて貰ったからね。それとも、僕では不満かい?」
「……まさか。助かるよ」
実際、チームを組めないのは命取りだ。こうして誘ってもらえるだけでも涙が出るほどありがたい。
「なになに。気にすることはないさ! チーム戦で君にさらに恩を売って『覇者』のカードを譲って貰おうとなんて考えていないからね!
涙が引っ込んだ。いや、彼なりの照れ隠しなのかもしれないが……目は本気だ。
「……大事なものなんだから、そう簡単には渡さないからね」
「うむうむ、わかっているわかっている」
まぁカード目当てとは言え、それでもチームを組めないよりはマシなのだから、気にしないでおこう。
問題はあと一人をどうするのか、なのだが……。
「おやおや、紙手殿? どうしたんだい?」
「…………」
見ると、さっきまで囲まれていた紙手さんが真横に立ってこちらを見下ろしていた。
「さっき、色んな人に誘われていたみたいだけど……」
「断った。全部」
「えっと……何か?」
「…………」
尋ねたのだが、黙ってこちらを見つめているだけで何も言おうとしない。
「おいおい優馬殿。野暮な事を言うものじゃないよ。彼女は君とチームを組みたいんだよ……ぼぎゃあ!?」
「黙りなさい」
紙手さんの蹴りによって武束は吹っ飛ばされた。
「えっ? 俺と……?」
「…………」
彼女はぷい、っと顔を逸らしてしまった。なんとなく、恥ずかしがっているようにも見える。
思わず目頭が熱くなる。自分のような人間を必要としてくれるのが、嬉しかった。
「あの、紙手さん……もしよかったら、一緒にチーム組んでくれると……嬉しいんだけど」
彼女の実力は本物だ。それに、彼女にはデッキ作りについて教えてあげたいと思っていた。
だが、凍った目なのに普段よりジトっと湿った感じで睨まれる。
「同じチームだと。対戦できない」
「……うっ」
いつもよりもなんだか恨めし気に感じる。
やっぱり今まで対戦の誘いをなんだかんだと断っていたことが不服だったらしい。
「……ほ、ほら、デッキ組んだり、練習したりとかいろいろあるし……ね?」
少し考えていたがようだ、しぶしぶ、といった感じでうなずいた。
「わかった」
これでなんとか、チーム結成だ。
「あッ! みんなゴメンッ!! 言い忘れてたッ!!」
さっき教室から出て行ったはずの葉月先生が舌をぺろっと出しながら戻って来た。
「優勝したチームにはなんとッ! 『レイズチケット』が3枚!! 進呈されますッ!!」
「……『レイズチケット』?」
レイズとは賭け金を上げるという意味だ。その名称だけで嫌な予感がする。
「このチケットを使えばなんとッ! 賭けるゴールドを自由に設定できますッ! 対戦相手が嫌だって言ってもッ!! 上限いっぱいでもッ!! 好きな額に無理やりレイズすることができるよッ!! マジスゴッ!!」
そんな大事なこと、忘れないで欲しい。
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