第2章 騎士!? マリア=モンタニア
第1話 竜の飛翔亭
酒場『
「なんでも灯台に巣食ってたワイバーンが塔を破壊して出ていったらしい」
「俺はいかれた冒険者が樽いっぱいの火薬をぶっ放したと聞いたが?」
「いやいや、王国騎士団の秘密兵器が登場したって話だぜ」
まことしやかに語られる『バルクリの貴婦人』の悲劇を背後に聞きながら、俺たちは飛翔亭のど真ん中の席に陣取っていた。普段であれば十人は座れるであろう巨大なテーブルを囲んでいるのは俺、エリス、キーラの三人だ。
「昨夜いただいたものをすべて、三人前ずついただこう」
「うげっ」
正気か、こいつ……。聞いてるだけで胃液が上がりそうだ。人の金だからって注文し過ぎだろう。俺は謙虚にいくぜ。
「店主、俺は魚料理とパン。あと、上物のエールを」
「忘れておった。私もエールを」
「あれ、三人前ってみんなの分じゃあ……」
冒険者協会の港町バルクリ支部長のキーラは怪しくなってきた雲行きに、胸元に忍ばせていた革袋のコインを数え始めた。エリスは亜麻色のお団子娘に声を掛ける。
「キーラよ。お主も遠慮せずに好きなものを頼め。お主の金だ」
「え……あ、はは。スープ、ください……」
ほどなくして、巨大なテーブルは豪勢な食卓へと変貌した。
野ウサギのパイ、塩漬け豚肉の煮込み、魚介のクネル、酢漬けの野菜、ソーセージとチーズの盛り合わせ、アルトリジオス風コンキクラ、
キーラは青白い顔をしながら、スープを飲む。
「ああ、美味しい……」
エリスはフォークで次々と料理を口に運びながら、なにかを噛みしめているキーラに言う。
「へんほふうへはいほ」
「エリス」
「んぐぐ」
俺がエールを渡すと、エリスは素直に受け取って食べ物を流していく。そんな俺たちを眺めながら、温かいスープに元気が出たのか、キーラが笑顔を作る。
「お二人は、ご兄弟ですか?」
「ぶふっ」
「……」
エリスが思わず吹き出す。俺はビシャビシャになった
「げほっ。ごほっ……こやつと私のどこが血縁者に見えるのだ。髪の色も瞳の色も違うであろう」
「あ、確かに。じゃあ……養子ですか」
「……そちらの方が、まだしもであるな」
否定すら面倒臭くなったのか、エリスはそれだけ言って食事を再開する。
「エリスさんも、第二次テネブリス戦役で家族を失った方なのですね。王国もそちらではなく
「テネブリス戦役……?」
『境界の警備が王国騎士団の任務』だと、先ほどエリスが言っていたな。豊かで平和に見えるエンティア王国も地域によっては他国と紛争状態なのだろうか。
俺の疑問符に答えるようにエリスが言う。
「この港町バルクリは半島の最南端に位置するからな。きな臭い辺境の地から最も遠い。先の戦役の相手である北西の王国ゾルンゲン。西方の諸国、そして境界。いかなる
「はあ」
「少々よろしくて?」
エリスの話に、世界は広いんだなあ、と意識を飛ばしかけていた時、一人の騎士が俺たちに声を掛けてきた。
三つ編みに結った金髪を片側に流したその女騎士は、白い肌に映える鮮やかな空色の瞳で俺を睨みつける。
「やはり……」
ポツリと呟いた後、女騎士は早口で何事かを唱える。
「祖国を護りし
「え、なに?」
女騎士の周囲に風が巻き起こる――
「
「うあっ!? え、ちょっ!」
巻き起こった風は縄のように躍り出て、俺の腕と足を拘束した。椅子ごと床に倒れ込んだ俺の背中を女騎士が黒い編み上げのブーツで踏んできた。
「いって、痛い痛い。ちょっと待て待て待て!」
「待ちません――窃盗を働いた罪及び、王国の建造物を損壊した罪で、このマリア=モンタニアがあなたを牢へ入れて差し上げますわ!」
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