Hearts Do Hard
久末 一純
第1話N/O=0
だぁーっ、もう。さっきから五月蝿いったらありゃしない。
ただでさえぐわんぐわんシェイクされてる頭のなかを、甲高い音がガーガーピーピー鳴りまくって大声でがなりたてる。
しまいにゃ赤やら黄色やらの
なんで機械じゃない癖に、どうしてこんなに自己主張がメカっぽいんだ
「それは人間の方に自分がどれだけの窮地に立たれているかを心地良く知って頂く為に御座います」
なんだってそんな余計なお世話に無駄に凝る。
そんなの、言われなくても分かってるって。
ここまでされなくても分かってるってば。
この状況が、
そんなことは、わたしが一番よく分かってる。
今がどれくらいヤバいのか、それくらいわたしにだってヤバいくらいに分かりきってることなんだから。
問題は今どうなってるかじゃなく、今をどうにかする答えでしょうに。
「はいマスター、自立献言のお時間です」
あぁ! 次はあんたの番なのか。
ちょっとだけ、あんたと
結局こいつとおんなじことを、あんもわたしに言うのか。
「何!? 今見ての通り超忙しくて手が離せないのっぴきならない状態だから言いたいことがあるなら手短に何も言わないでお願いだから」
「残念ながらそのご指示には従うことは出来かねます。ですので、何事もなくこのまま続けさせて頂きます」
くっ、あんた。いくらひとじゃないからって、少しはひとの話を聞きなさいよ。
「最初に言わなかったから今言っておくけど、わたし、自分で分かってることをひとに指摘されるとお腹のむしが暴れだしちゃうんだよね」
「左様で御座いますか。それは難儀なことで御座いますね。ご自身でご自分の成長の可能性を摘み取っていらっしゃる点が、特に顕著にそう思わせます。ですが現状そんなことは関係ないので放っておきます」
勝手にひとを値踏みして放らないでよ。
せめて置いとくくらいにしといてよ。
「マスター、まずあなたはふたつの事実を間違えている。それではまず解の一から。あなたが
なのですって、そんなにはっきり言われても。
そんな実感、わたしには全然ないのに。
それより何故余計な修飾語を付け足した?
「それは致し方ありません。あなたは今日初めて『アルターイド』を顕現させたのです。未だ自己と自身に乖離があるのが通常、寧ろ最初から自分自身を受け容れられる方のほうが異常なのです」
つまりわたしは
それは良かった良かった。
って、良くない。
だって、この状況がもう既に普通じゃないんだから。
なんかわけのわからないヤツにお説教されてるこの状態も。
なんでわけのわからない理由で戦わされてるこの状況も。
流石に全部、まあいっか、のひと言じゃ済ませられない。
「その物言いは心外です、マスター。私のことについては解の二にてご説明しようと思っておりましたのに、先取りした挙げ句そのようなレッテルを貼られるとは少々酷いのではありませんか。
はあ、それはまた難儀なことだね。
それじゃあ、もしかしてさっきから・・・・・・・・・。
「はい。わざわざマスターに訊かれずとも、お応えする用意は万事整っております。マスターと私は、あなたの心を通して繋がっております。マスターが何を思い、何を考え、何を為さりたいのか。私には手に取るように分かるのです。故に、こうしてあなたの疑問を先取りしてお答えをご提示することが可能なのです」
え?
「わたしの中身が全部筒抜けってこと!?」
「はい。マスターの底無しの中身はまるっと全てお見通しです」
それを最初に言え!
しかしなんてこった。薄々予想はしてたけど、当たって欲しくないと心から願ってたのに。
こんな、心に直接話しかけるどころか心を直接覗き見られるなんて。
これじゃあ秘密もプライベートもあったものじゃない。
「ご安心下さい、マスター。私、これでも分別はありますし口も堅いですから」
「そういう問題じゃないの! 信用も信頼もしてない相手にわたしの中身がだだ漏れなことが大問題なの!」
そんな相手にこんなことを言ってしまうわたしも、大概どうかと思うけど。
ああ、そうか。こなんこと考えてるのも全部バレてるのか。
「はい、マスター。それはお互い追々構築していくとしましょう。その為の第一歩、私が一番最初に最初に進言したかった解の三です」
「もう分かったから! もう分かってるなら早くいって!」
「はい。それでは最後に解の三です。マスター、落ち着いて下さい」
それを最後に言うな!
「あんたの言いたいことは言葉にされてようやく分かった。けど駄目。もう遅い」
「ですが一度落ち着かれて考えを改められたほうが、この状況を打破する手段が・・・・・・・・・」
「その時間の全部が惜しい!」
そう、今、この時間しかないんだ。
あの鋼の鎧の奥で。
あの分厚い仮面の向こう側で。
にやにやとわたしを見下している、この時間が何より惜しい。
「では、どうされるのですか? マスター」
「そんなのひとつに決まってるでしょ」
今のわたしに出来ることは唯ひとつ。
あいつもそれは分かってる。
分かった上で待っている。
わたしが破れかぶれで仕掛けてくるのを、手ぐすね引いて待っている。
だったら。
わたしのやるべきことはひとつだけ。
「正面から、打ち砕く!」
そしてわたしは
自分の右手で、拳を握る。
あのいけ好かない澄まし顔に、一発お見舞いしてやるために。
「女は度胸、勝負は気合、そして最後は根性だぁぁらっーーーーーー!」
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