第21話本幕/柏手の一=チャンバラの巻/その十三~剣戟娘:断八七志流可の章~

「本当に、光栄です」

 僕は短かい言葉で、カルシュルナさんの厚意に応える。

 その言葉に、僕の想いの全てを込めて。

 あの心ときめく流星を、いま一度この眼にすることが出来る。

 もう一度、この身体で受け留めることが出来る。

 僕の持つちっぽけな、生命を懸けて。

 そのためなら、この生命なんて惜しくない。

 この生命を、代金として支払うのに躊躇はない。

 彼女の放つ、あの輝ける流星を破りそして。

 僕の全身全霊を刃に載せて、あなたを、斬る。

「ありがとう。私も、同じ言葉をあなたに返すわ」

 そう言ってカルシュルナさんは、綺麗な薔薇の微笑みを浮かべる。

「それじゃあ、往くわね」

「ええ、いつでもどうぞ」

 そうして、お互いの重心が地に沈む。

 緊張が頂点に達し、脱力が頂上に至る。

 そしてお互いが溶け合い混ざり合い、ふたりの身体に互いが均しく満ちていく。

 彼女の軸足に、僅かに体重と力が移動するのを見て取った。

 刹那、カルシュルナさんは弾丸となった。

 一直線に、僕の生命を穿つ弾丸に。

 そんな彼女からの最大級の称賛に、僕は最大限の敬意を以て応える。

 小細工は一切なし。

 相手が真正面から向かってくるなら、応じる一手は唯ひとつ。

 ただ、真っ向から斬り伏せる。

 逃げることなく、退くこともせず、僕もカルシュルナさんに立ち向かう。

 それが彼女の必殺の意志に対する、僕からの返礼だ。

 その瞬間が待ちきれないとばかりに、両の手に握る僕の相棒と戦友も震えている。

 いや、違うな。

 これは僕自身の震えか。

 恐怖と歓喜。

 それらがないまぜになって絶頂に達した、僕自身が待ちきれない武者震い。

 カルシュルナさんの首を、胴体を、身体そのものを、真っ二つに両断する瞬間を。

 だけどその震えも、彼女が僕の間合いに足を踏み入れた途端に凪いだ。

 そして颶風となって迫るカルシュルナさんの間合いに、僕自身も一歩踏み込む。

 彼女の突きが、僕の心臓を穿つが速いのか。

 僕の右の大剣が、カルシュルナさんを縦に割るが速いのか。

 お互い自分の生命なんて考えない。

 どちらの手がより速く、相手の生命に届くのか。

 それだけに、己の全てを集中する。

 だけど、それだけの気概と覚悟を込めた僕の兜割りは虚しく空を断つのみだった。

 彼女は僕の間合いを完璧に見切り、刃が届く一寸手前で急制動をかけていた。

 自分の左足を、大地に深くめり込ませて。

 そうして右足を踏み込むと同時に放たれる、カルシュルナさんの突き。

 だけどこれは、彼女の流星じゃない。

 だったら、避けることは容易い。

 それに、僕はこうなることを

 薄皮一枚座標を躱された突きが、僕の後方へと抜けていく。

 そのとき、カルシュルナさんは笑っていた。

 咲き誇る薔薇のように。

 きっと僕も、笑っているだろう。

 牙を剥いた獣のように。

 以前フェルが言っていた。

「嘘を吐くのが女じゃないわ」

「嘘を遣えるのが女だけなのよ」と。

 だから自然と、二人の間に笑みが溢れる。

 その笑みに細められた僕の眼が、大きく見開かれた。

 僕の後ろへと奔ったはずの彼女の剣が、いつの間にか

 突きの真髄は

 その真髄を目の当たりにした僕の胸中にあるのは、紛れもない感嘆と讃嘆。

 そして見開かれたままの僕の眼は、興奮と昂揚で爛々と輝いていった。

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