第19話本幕/柏手の一=チャンバラの巻/その十一~剣戟娘:断八七志流可の章~

 僕は咄嗟に掲げた左の大剣を盾として、死の流星を食い止める。

 ほんの僅かな誤差もなく僕の心臓に撃ち込まれた一閃を、辛うじて剣の腹で受け止めた。

 鋼と鋼が噛み合い喰らい合う、重く甲高い響きが辺り一帯に鳴り渡る。

 その残響の尾を引きながら、僕は後ろへ向かって吹き飛ばされる。

 彼女から受けた必殺の突き。

 その力に逆らわうことなく逆に利用し受け流すようにして、僕自身で跳躍して距離を取る。

 先のようにカルシュルナさんが剣を滑らせることで踏み込まれ、間合いを詰められるその前に。

 周囲の人垣にぶつかるより先に着地して、体勢を立て直す。

 だけど僕が剣を構え直すよりも尚一手早く、彼女は僕に追いついていた。

 カルシュルナさんは、僕を詰みにきていた。

 あの、必殺の刺突の構えのままに。

 くっ、このひと、やっぱり速い!

 直線において間合いを詰める速さと巧さうまさが、抜きん出て尋常じゃない。

 おそらく、今迄僕が誰よりも。

 そして再び放たれる、夜の空気を斬り裂く流星。

 それを僕はまた正面から、左の大剣で受け止める。

 二度にたび、鐘のように澄んだ音が奏でられる。

 僕はその響きを、目の前で聞いていた。

 今度は、一歩たりとも退がりはしない。

 全身に力を込めて、その場へと踏み止まった。

 背後に敵性の人間が固まってるから、っていう訳じゃない。

 そんな邪魔なもの、必要なら斬ってしまえばいいだけなんだから。

 だから、その理由は単純明快。

 それはたったひとつだけ。

 このひとに、勝つ。

 ただ、それだけだ。

 退がるばかりじゃ、このひとには絶対に勝てはしない。

 いつか必ず追い詰められて、死の流星をその身に受ける。

 きっと、ドーナッツみたいにキレイな穴が開くだろう。

 そうはならない為に。

 そうはさせない為に。

 その結末を、覆す為に。

 これ以上、退がらない。

 ここで、何が何でも踏みとどまる。

 そして、ここから一歩を踏み込むんだ。

 そうしてカルシュルナさんの剣と胴をまとめて真っ二つにするために、左足を踏み込みながら横薙ぎに剣を振り抜く。

 でも、そこにはもう彼女はいなかった。

 お互いに手を伸ばしても届かない、だけど一歩踏み出せば刃が届く絶妙な位置まで退、彼女は既に構えていた。

 僕が見惚れた、薔薇のような微笑みを浮かべたままで。

「三度も突きを放って斃せないだなんて、あなたが初めてだわ。これを楽しいなんて評したら、あなたに対して失礼かしら?」

「いいえ、そんなことはありません。寧ろ光栄です。あの流星を、三度もこの目に見ることが出来たのですから」

 そして自分の小さな胸の裡だけで誇りに思う。

 このひとが僕に与えた死から、三度も生き伸びることが出来たことを。

 僕はまだ、刃を握って立っている。

 、僕はまだ出来る。

 だって僕はまだ生きているのに、このひとを斬っていないのだから。

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