第17話本幕/柏手の一=チャンバラの巻/その九~剣戟娘:断八七志流可の章~

 僕とカルシュルナさん、ふたりが揃って同じ答えを、同じ言葉で口にしたそのときだった。

 ごう、と唸りを上げて一陣の風がふたりの間を駆け抜けていく。

 夜露に濡れた冷たい風が、僕の全身を撫でていった。

 それは突き裂かれた頬の傷に染み込んで、新たな痛みを呼び起こす。

 それと共に、改めて思い起こさせる。

 この傷を負った瞬間の恐怖、そしてそれを遥かに凌駕する歓喜の絶頂を。

 それは今でも僕の頭を灼き焦がし、心を滾らせ続けている。

 だってこの傷を刻んだ張本人であるカルシュルナさんが、本気で僕と相対してくれているんだから。

 だったら、この状況を愉しむしかないよね。

 だからこそ、この状態を悦ばずにはいられないよね。

 お互いに、一歩踏み込めば手が届く。

 相手の生命に、己の刃が届き得る。

 この、

 さっきの一合、大目に見れば引き分けって言えるのかな。

 だって、僕もカルシュルナさんもお互いまだ生きているんだから。

 でも傍から観れば、せいぜい痛み分けが関の山といったところだろう。

 もっと言うなら判定なんてするまでもなく、確実に僕は負けている。

 僕と彼女、頬とお腹、お互いに傷はひとつずつ。

 けれどカルシュルナさんの傷は皮一枚。

 お腹に薄っすら赤い線を引かれただけ。

 それに対して僕はといえば、頬の肉をざっくりと抉られている。

 そこから流れ出てくる赤い雫は、全然止まる気配はない。

 その塩気の効いた鉄の味、敗北の味を口一杯に頬張り噛みしめる。

 そしてひたすら考える。

 自分のことなんてお構いなしに。

 ただ相手のことを、カルシュルナさんのことだけ考える。

 

 ただ、それだけを考え続ける。

 だって、僕はまだこうして生きているんだから。

 それは、きっと彼女も同じだろう。

 彼女もきっと、自分が勝ったなんて思っていない。

 今の僕と同じように、

 どんな味かは分からないけど、彼女も敗北を噛み締めている。

 だからこそ叩きつけられる、裂帛の気迫。

 全身から放たられる、苛烈なる鬼気。

 その瞳に宿る、峻烈なる殺意。

 真っ直ぐに僕を貫き射抜く、必殺の意志。

 次は、カルシュルナさんのほうから仕掛けてくる。

 何も言わず言われずとも、自然とそれが伝わってきた。

 そして僕は彼女の全てを、真正面から受け止める。

 柳に雪折れ無しなんて、

 そんなのは、僕の好みじゃないからね。

 ぎちり、と彼女の筋肉が締り撓む音が聞こえた気がした。

「――じゃあ、往くわね」

「はい、どうぞ――」

 その言葉が終わった瞬間だった。

 カルシュルナさんが、僕の間合いの中に入ってたのは。

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