第21話一番大事な仕事の基本~その二十~
そんな自分の本懐を遂げてきたであろう面妖な出で立ちと奇妙な内面を見せる正体不明の女を前にしても、どういうわけか
この様子から鑑みれば自分の予想は最悪のかたちで的中している。
しかしいつも
ならば残る問題は相手がこちらに刃を向けてくるか否かだ。
だが未だ警戒の眼差しと姿勢は解くことはないが、一方で何かしらの敵対的な行動に移っていない。
こと今ここに至るまでの状況の流れは一応俺の見解も含めて逐一九区利に伝えている。
ならば九区利や社長たちでこの場の対応を即座に協議し速やかに決断を下すだろう。
このままお見合いを続けて相手の出方を見るか、それとも今迄通りに変わらず処理するか、または無視して先を急ぎ現状を確認するか。
それでも現場判断で動くか確認しよとしたそのとき九区利から指示がきた。
それは予測していたどれとも異なるある種意外なもので「とりあえず話をしてみてください」というものだった。
何故か今日は苦手な役ばかり回ってくるなと思いながらもその意を汲んで指示に従う。
……初対面の女に話しかけるときはどうすればいいんだ?第一声はなにが適切なんだ?
九区利に指示を仰いでも「そこは現場判断でお願いします」と返され、亜流呼に訊けば「いつも通りでいいでしょう」とかえされた。
傷仁に至っては「適当でいいだろ適当で。ああ適当ってのは適切に事にあたるの略のなんだぜ」と答えになっていない上にいらん雑学までおまけに付けててきやがった。
全くもって頼れる仲間を持ったものだ。本当に。
最後の頼み綱である姉は最初から押せ、押せと攻めにのみ特化した意志を伝えてくる。
それが一番苦手としていることを百も千も承知の上で
これが獅子を千尋の谷に突き落とす親こころなのか、単に俺をけしかけて遊んで楽しんでいるのか判断がつかない。
俺としては前者であってほしいと願うばかりだか、考えみれば普通は谷に突き落とした時点で大概死ぬよなとふと思った。
最早仕方がないというよりはもうどうしようもないので自分でなんとかするしかないと心に決める。
こういうときのためにその手の雑誌なり指南書なりに目を通しておけばよかったかと、あとで絶対に思い出しもしない無駄な後悔をしてしまう。
今日は後悔もしてばからだなと思い、何かの厄日かとも考える。
真逆このな地のそこでこんな目にあおうとは。
少なくとも日頃の行いではいと思い姉を見ると思いっきり手を左右に振って否定された。
そんな俺達の様子を見て相手も警戒に怪訝の色を混ぜた視線を向けてくる。
目的を遂げたのだから速くここから脱出したい。
しかし其の目に前には俺がいる。
その俺が何の反応も示してこないので向こうもどうすればいいのか決めあぐねているようだ。
それもまた妙な話だが。
とにかく最早試練の一つとでも考えるしかない。
一秒でも早く状況を進展させるため無理矢理にでも自分を騙して納得させる以外になかった。
そうなるとさてどうする。
今日の天気から切り出すかと思えば今は夜だ。
では相手の容姿をとっかかりにしようかとすると眼しか見えない。
なら服装はと見やれば黒一色の実用品。
少ない知識と僅かな経験からひねり出した手札は場にだすことすらできない。
八方塞がりの檻のなかでどうしようかと思いあぐね、いっそあいつの話をしてみようかと思ったとき天啓のように大事なことを思い出した。
人間関係において基本でありながらとても重要なことであり、それが初対面とくるならなおさらだ。
俺はそれを逡巡することも躊躇することもなく即言葉にして相手に向ける。
「こんばんは、初めまして。俺の名前は
そう
それは眼を見るだけで読み取れるほどに分かりやすく雄弁な変化だった。
本当に目は口ほどにものを言うとはよく言ったものだった。
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