僕の夢の話

みず

僕らの





僕には、僕らには夢があった。

どこにでもある、でももう手に入らない、儚くて美しくて、どこまでも追いたくなる夢だ。



いつだったか、彼が言ったんだ、「いつか、あの星を掴みに行こう」と。

僕は、おそらくその内容自体には、あまり興味がなかったように思える。たぶん、空を飛ぼう、でも、人魚を探しに行こう、でも、魔法使いになろう、でも、僕は頷いただろう。だって、彼の言うことだから。

僕は無茶で無謀でどこまでも真っ直ぐな彼を、見ているのが好きだった。理想の主人公だったからだ。だから、僕は僕の人生の主人公を彼にすることに決めた。彼の夢を自分の夢だと語り、追い、そして諦めるなら一緒に挫折する。きっと僕が居なくても彼は変わらないだろう。いや、変わってもらっては困る。僕ごときの存在で僕の理想の主人公は折れたりしない。

思えば、この時から僕はもう既に、彼を勝手に定義し限定していた。そして幸せなことに、彼はその定義からはみ出すことは無かった。いつも僕の理想の、想像通りの主人公でいてくれた。

歳を重ねるごとに、僕にとってのその夢の価値はどんどん膨れていった。なぜなら、当たり前に星に手なんか届くはずがないからだ。それなのに、届くと信じて手を伸ばしていた僕らはなんて綺麗だったんだろう、と。届かないから、絶対に叶わないから、この夢はいつまでも綺麗な「夢」としてあり続けられる。そう思っていた。

夢は叶わない方が美しいと、本気でそう思っていた。


人生だってきっとそうだ。終わり方よりも生き方の方が大切だろ。でも彼はそもそも終わることが視野に入ってないんだ。


そして彼が、いつまでも僕の主人公の彼が、本気でこの途方のない夢を追っていることも知っていた。ある時、彼はこう言った。


「星はずっとずっと遠くにあるから、こんなに小さく見える、でもたまに星よりずっと近くを飛んでる飛行機を星と見間違えることがあるだろ?それなら、1つぐらい掴める小さな星が僕らのすっごく近くに浮かんでいても僕らは気づかないんじゃないか、どこかにあるんじゃないかな」


僕は彼の横で頷きながら、あぁ、なんてことを言うのだろうと思いながら、いつも通りの彼であることに安心した。彼は諦めたりなんかしない、絶対に。




一体どの発言が彼の表情を曇らせたのか、僕には分からなかったけれど、僕の些細な言葉の節々から僕がこの夢を叶えるのが目的ではなく、追うことが目的だと察したらしい彼は酷く憤慨した。

「本気じゃないのかよ!お前は!!全部嘘だったのか!?俺は本気で、、!」


「そんなはずない、そんなわけが無い、僕だって心の底から掴みたいよ!!だってそう思わなきゃ、必死で追わなきゃ綺麗じゃないだろ!?」と僕は彼の前で初めて、彼の望んでない発言をした。


「綺麗とか、美しさとかどうでもいいから!思い出作りじゃないんだよ、これは!!」


そういう彼に、僕はなんて言えばいいのか分からなくなった。

ここでなんて言えば、彼に誠実であれるだろうか。

今まで彼中心に彼の欲しい言葉を喋ってるつもりだった。彼の望んだ返答ができてるつもりだった。彼が彼らしく、いつまでも変わらないために。今思えばなんて傲慢なんだろう。

でも僕は彼には誰よりも誠実に言葉を紡ぎたかった。


どう言ってももう駄目か…と諦めかけた時に頭の中に彼の声が思い浮かぶ。


「お前はいつも諦めた振りして諦めてないこと俺は知ってるからな」


違うよ、本当は違う。僕は諦めてるよ。でも君が、君が諦めないってわかってるから、だから僕はすんなり諦められるんだ。君が、諦めた僕なんか構わずに僕も巻き込んでつかみに行こうとしてくれるってわかってたから。


なんだ、甘えてたんだ僕は。彼に。彼の真っ直ぐで無謀な純朴さに。

僕は結局、彼が一緒に、僕も一緒に連れ出してくれることを期待して、、いや、期待なんて甘い言葉じゃ足りない。信仰していたのだ。絶対に彼は、僕も一緒に夢を叶えると言った約束を叶えようとしてくれると。



あぁ…こういうことか。そう、つまり結局僕も夢を叶えようとしてたのか、信じてやまない彼越しに。

それなら、彼が僕の理想の主人公で居てくれてる限りは僕もそれに倣わなくてはならない。それが僕らを繋ぐ美しく綺麗な、ある側面から見れば歪な友情だ。


僕は彼が怒ったことすら愛しく感じていた。

だってそれはつまり、彼はやはり「僕と」夢を掴もうとしているのだから。だから、きっと大丈夫だ。

ここで僕がなんて言っても、傍から見れば不誠実な言葉を紡いでも、彼が彼である限り僕たちが変わることはない。


だから、僕はこの場面ではすぐにごめんと謝って、彼にこう言った。


「今夜、行こうよ。星をつかみに。なんだか、今夜ならできる気がするんだ。」

と。

彼は期待通り、信仰通り、僕の主人公らしく、

「おう!!」

と笑って返事をした。





それから、僕らはずっと、星が出るのを、夜が来るのを待ち続けている。



おわり。

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僕の夢の話 みず @hanabi__

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