卒塔婆の街のブンヤ 6
二人の元へ
「おうコラてめぇ、
まさかこんなうららかな四月の
俺の予想通りブラックマンはナイフを所持していた様で、男は俺の警告通り先にナイフを奪って遠くに投げ飛ばしていた。
ああよかった、あの時体を張って止めてたら今頃俺は月の裏側旅行中だったわ。霊体で。
携帯電話を取り出しとっとと110番通報。
「何か言えよあぁ!?」
ブラックマンはあちこち傷だらけの状態で、マスクは
なぜかグラサンはしっかりと掛かったままだった。あんだけ派手に転がったのにまじかよ。溶接してんの??
流石のこの騒ぎに、静まり返っていた路地沿いの住人達も何事かと出てきたり窓から顔を出して恐る恐るこちらを伺っていた。
『───ハイこちら110番。事件ですか、事故ですか?』
緊急通話が繋がり、交換手が淡々としたトーンで早口に聞いてくる。
「あー…えっと…」
状況をなんて説明しようかと考え、二人の方を見る。するとブラックマンがなんかピクピク
「……iiii…!!」
「ああ!!??」
笑ってる…のか? この状況で??
何というか、発した声?があまりに機械的な響きなんで本当に笑ってるのか疑問だったが、口角が上がっているのを見た感じ恐らくは笑っているのだろう。
『もしもし? どうされました? もしもし?』
携帯のスピーカーの向こうから不審がっている声がした。
「・・・・・・・・!」
えっ? 何て言った??
ブラックマンがやはり機械的なトーンで聞いた事がない言葉を
「…てめぇ!!」
男がブラックマンを
その衝撃でとうとうグラサンが外れて飛んでった。
「げ!?」
『げ??』
つい、俺も大きな声を出してしまった。受話器の向こうから
だってさ、ブラックマンの目が…目が…!! いやギャグじゃねぇって!!
目の辺りが…機械で出来てんだぞ!? グラサン本当に溶接されてやがった!!
「AAAAAA!!!!」
その瞬間、ブラックマンが
「うわっ!」
あまりの
光の
「チッ…、逃げられたか…!」
ブラックマンは───跡形も無く消えていた。飛ばされていたマスクもナイフもグラサンも。まじかよ。(何度目だ)
『ちょっと聞こえますか! 何があったんですか!!』
俺は携帯を耳に当てた。
「あの…、ひったくり犯が…目の前で消えちゃって…」
『はぁ!?』
そうですよね。その反応正解。
◆◇◆◇◆
エラい目に
電話で俺がありのままをいくら説明しようとも全く信じて貰えず、だったら冷やかしかイタズラ電話と処理してくれればいいのに、
「わりい、ちょっとこのバッグ持ち主に返してくるわ」
「えっ、ちょ、これから警察来るんだけど!?」
「適当に答えといてくれ! じゃあな!」
そう言い残すと謎の男は取り返したバッグを手に
…これ、つまりは貧乏クジじゃね…?
数分前の
背後から自転車を停める短いブレーキ音が聞こえた。
「通報されたのは貴方ですか?」
若いお巡りさんが話かけてきた。二人一組でもう一人は俺と同じくらいの年齢に見える。
「あ、ハイ」
「お電話と
あーーーーーー……どうしよう………。
まあ、正直に話せばいいか。俺だって訳わかんねーよ。
「えっとですね、自分がこの通りを歩いていたら、誰かのバッグをひったくったとおぼしき男とそれを追いかける男があっちから走って来まして」
「うんうん」
年上のお巡りさんがクリップボードに
「協力して取り押さえたんですけど」
「え!? 怪我とかはされてませんか!?」
「あ、ハイ」
両腕を地面と平行になる様に広げて無傷アピール。
「で、その犯人ともう一人の方は?」
「それが、その…110番でも言ったんですけど…、消えてしまいまして」
「はい?」
「ピカーッと、光ったと思ったら、そりゃもう跡形も無く」
あの男もついでに消えた事にしよう。めんどくさいから。
「ピカーッと? ^^」
「ピカーッと。 ^^」
「跡形も無く? ^^」
「跡形も無く。 ^^」
…。
「^^」「^^」「^^」
何この空気怖い。
三人、妙な笑顔が張り付いたまま時間が止まった。
「…とりあえず、身分証見せてもらいましょうかね」
うん、目が見た目ほど笑ってないね。分かってる分かってる。
あの野郎、協力してやったってのに面倒事だけマルっと押し付けていきやがったな。次会ったらビンタだ。グーで。
公権力に逆らっても
「免許証無いんで保険証と、あとこれ勤め先の名刺」
自分の見た目がこんなだから職質はもう慣れたモンだ。こういう時に変に反発したりオドオドしたり、とにかく不審なアクションをすると面倒な展開になるのは身をもって理解していた。
「拝見しますね」
若いお巡りさんは保険証と名刺を並べ眺める。
「お名前の読みは…
「合ってます」
メモ取ってる方のお巡りさんが激しくビクッてなった。なんだ?
「お勤め先は…あ、ここってもしかして出版社ですよね? 雑誌の。自分何度か読んだ事あります」
「あ、そうなんですか? ウチみたいなマイナー誌をありがとうございます、ヘヘ」
「浅…倉…? 出版…社…!?」
「ペア長?」
ペア長と呼ばれた上司さんの手がブルブルと小刻みに震えている。しかもいきなり大量の汗。なんだどうした? 持病の
と心配になった矢先、その上司さんが物凄いスピードでズイっと前に踏み出て深々と頭を下げてきた。
「大変失礼しました! まさか
「えっ?」
「えっ?」
突然の展開に理解が追い付かない俺と若いの。
「行くぞ! この件はもういい!」
「ちょ、ペア長、何言ってんですか!?」
「いいから行くぞ! 社長の浅倉大吾氏に関しては遥か上層部、俺とお前にとって神様クラスの方からの達しだ! 察しろ!!」
「ブーーー!!」
「ブーーー!!」
新時代にまさかの昭和のノリで吹き出してしまった俺達二人。
「後は本官の方で処理しますので! お時間取らせてしまい大変申し訳ございませんでした! 失礼致します!! 行くぞ!」
「ハ、ハイ!!」
若いのは何とか状況の理解が追い付いてきたのか、渡した保険証と名刺を俺に返すと一目散に退散する上司の自転車を慌てて追いかけて去って行った。
…またしても俺一人、状況に取り残された裏路地。
「つうか…なんなんだオヤジの奴…。国家権力の上層部に影響力があるなんて聞いてねーぞ…」
いつものおちゃらけたダメ野郎な姿を思い出すが、親子になって35年目にして新たな謎が増えるとは夢にも思わなかった。
何となく周囲の建物を伺うと、目を合わせまいと窓々がピシャっと閉じていく。
やっぱりこっち見てたのねあんたら…。開けたり閉めたり忙しいね。
「とりあえず移動しよう…」
ここに居ても仕方ない。視線も痛いし。
あの男も恐らくここには戻ってこない気がした。
エラい目に遭った。とんでもない目に遭った。
「(でもバッグの中身見られなくて良かった…)」
厳密には違法では無いとは言えどもスリングショットを持ち歩いているなんて誰がどう見ても普通じゃない。ましてや警察相手じゃ何言われるやら。
誰が聴いているか分からないから口には出さなかったが。
…もしかしたらそこまでもオヤジの計算だったとか…?
コワッ! 何なの?
(次話へ続く)
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