第12話邂逅、そして会敵の朝✗12

「よ、よし。では始めるぞ」

 私は気持ちを引き締めて、大事な作業へと集中する。

「うん、いつでもいいよ。どんとこい。でもさキルッチ、大丈夫?」

「な、何がだ?」

 私は努めて冷静に応えを返したつもりが、思わず声が上ずってしまった。

「だってキルッチ、さっきかぜいぜい息が荒いし、何だか顔も朱いよ」

 内心を押し隠してお仕事モードに切り替えていたつもりが、あっさりと見抜かれてしまった。

 それもよりにもよって、こういったことに一番鈍そうなアーサに見破られてしまうなんて。

 いや、これこそがアーサの持つ女の勘、ならぬ野生の勘なのかもしれない。

「私は大丈夫だ、問題ない。これも大切な任務だからな。少々気合いが入りすぎていただけだ」

「ふーん、それならいいんだけど。っていうか、それなら良かった」

 にかっと、歯を見せて屈託のない笑顔を浮かべるアーサ。

 私の言葉に一切の疑いなど持たず、完全に信じ切っている様子だ。

 その笑顔が、チクリと胸に刺さる。

 そんなたんじゅ、ごほん。

 純真で初心うぶなアーサに、を告げられないのが心苦しい。

 だが、これも致し方ない。

 この隊における私の趣味と実益と人間関係のためには、どうしても仕方のないことなんだ。

 だからどうか許してくれ、アーサ。

「あとそうそう、それにさ」

「それに?」

「何か目が怖い」

「これは生まれつきだ!」

 そう、生まれつき、のはずだ。

 決して劣情を抱いて発情して欲情をもよおした結果では断じてない。

「まったく、いまのひと言でいままでのことは全部なしだ」

「いままでのことって? なんかあったの?」

 アーサが不思議そうに、小首を傾げて訊いてくる。

「何でもないし何もない。さあ、もうそろそろ始めよう。あまり時間もないことだしな」

 私は強引に話を打ち切り、もとの流れに軌道修正する。

「はーい。それじゃあキルッチ、よろしくお願いしまーす!」

 うむ。素直でよろしい。

「任された。では改めて始めるぞ」

 言いつつ私は点検項目が記された電子ペーパーを広げる。

 確認手順は、目視、触診、動作、の三項目からなる。

 まずは目で見て異常がないかを見定める。

 次に実際に手でスーツに触れて、各部に不備がないことを確かめる。

 そして最後に決められた動作を行い、動きに支障がないかを見極めるのだ。

 そうして異常がないことを確認し、電子ペーパーに記された各項目に「異常なし」のチェックをいれていくのだ。

 そう、これは極めて大事な、命に関わる作業なのだ。

 戦闘中システムに何らかの異常が発生すれば、それはそのまま死に直結するのだから。

 故に真剣かつ真面目に、細心の注意を払って行わなければならない。

 よこしまな想いなど、一ミリたりともあってはならないのだ。

 たとえ目の前にアーサという、極上の肉体があったとしても。

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