第26話インテルメッツォ-26 相反/逢半
「とは言ったものの、存外、悪い気は致しませんねぇ。寧ろ胸が高鳴りますよぉ。あたなからお褒めの言葉を頂くなんて、興奮してしまいますからねぇ。くふふ、何だか身体が火照ってきてしまいましたぁ。ええ、それはもうあやゆところが熱くなってしまいますよぉ。特に下腹部のあたりなど火傷してしまいそうですよぉ。如何ですかぁ? もしあなたさえ宜しければ、
そう言って少女は自らの身体を両腕で抱くようにして身を捩る。
それは幼さを多分に残した容姿には不釣り合いな、男を誘う蝋燭の如き
だがその危うい背徳と退廃から醸成される蠱惑的な姿態には、目眩がする程に艶めきたつ扇情と官能に満ちている。
それが少女の生来持ち得た気質、純粋なる本能からくる衝動なのか。
あるいは後天的に獲得し得た
たとえそのどちらであったとしても、それは男の劣情を駆り立て欲情を煽る淫魔の手管に他ならない。
その視界を染める程に色めき匂いたつ妖艶さにも
少女が見せる
その今となっては郷愁を誘うばかりの経験が、男の心に常の落ち着きをもたらした。
それは認識の転換。
目の前にいるのは呼吸をするように絶技を放つ怪物でない。
男のよく知る奔放で天真爛漫な、何より己を最優先に考える自由な少女。
そう思えたならば、いつも通りの少女の姿は却って心を楽にする。
心の裡で渦を巻いていた感情が、静かに凪いでゆくのが感じられる。
虚勢ではない自然なる平静を取り戻しつつある男の視線は一瞬、地に注がれる。
そこにあるのは男が返した拒絶の意志を、少女が拒否を込めて応えた結果。
薄紙一枚の差異もなく正中線から両断され、一が二となって転がる弾丸。
それは刃で斬られたというよりも、ふたつに分かれた表現されるべき切断面を見せている。
その間合いを、誤ることなく目に焼き付ける。
そして少女の本気の戯れ言に、軽口と冗句と本音を以て返せる程には男は余裕を快復させた。
それは期せずして再現される、いつかの日々に何度も繰り返されてきた光景。
確かに感じる喜びが甘い痛みとなって男の心を締め付ける。
もう二度と戻らないと半ば悟りつつ、諦めきれない未練の言葉。
「それは実に魅力的なお誘いだ。これでも男の端くれだからな。俺もまだまだ枯れてはいない、現役だということを示さなければな。
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