第21話インテルメッツォ-21 内心/亡心

「そう。そうですか。そうなのですね」

 ぽつりぽつりと、溢れ落ちるように少女は一言ずつ言葉を紡ぐ。

 それは軋むような音に似て、心の殻が剥がれ落ちていくような呟きだった。

 そこに覗くは、底無しの虚無。

「それが、あなたの決められた選択なのですね」

 男の言葉が、少女には意味が解らない。

 どうして男が、報われないと解っていながら歩み進み続けることを選んだのか。

「それが、あなたが選ばれた決断なのですね」

 男の気持ちが、少女には理解出来ない。

 どうして男は、唯一人残されながらそれでも一人で生きてゆくことを決めたのか。

「本当にそれが、対するお応えなのですか」

 そしてこれだけは、少女にとっては不可能だ。

 これでは、何の為に自分を最優先して二の次にまでしたのか分からない。

 何故男は、自分が折角用意した結末を享受しようとしないのか。

 こうなっては、手間を掛けてまで男に最低限でも配慮した理由が消える。

 それでも男にとって、あれが最適なことに間違いはないはずなのに。

 これこそが、男にとって、最も正しい選択肢のはずなのに。

 それこそが、男にとって最も善い決断のはずなのに。

 その為に、わざわざ二つも新しい道を示してあげた。

 自分にとって望んだ最高の結末と。

 男にとって最も適当な最適を。

 何よりも、その選択を男に選らせてよらせて

 その決断を、男に決めさせて

 なのに、何故。

 どこまでも頑なに、自分の言葉ばかりを拒むのか。

 どうして自分以外の誰かの道を、そう安易に採ってしまうのか。

 少女には、到底納得することは不可能だった。

 それも、あんな姿になってまで。

 かつての姿を知る者ならば、今の男に何を見るのか。

 少女にとってそれは、あまりに惨めで痛ましくて見ていられない。

 あんな姿に至るまで、男は如何なる道を辿ってきたのか。

 少女は、哀切と痛切を伴って想わずにはいられない。

 故に、少女はその全てを憎悪する。

 男にそこまでさせた者達、その全てを嫌悪する。

 しかしだからこそ辿り着き得たひとつの結果、その唯ひとつだけの成果を除いて。

 だが、少女が存在を許可する事実はただそれのみ。

 それ以外の無駄で無価値な有象無象は、十把一絡げに廃棄する。

 男が何と想っていようと、少女はそんなことを考慮しない。

 男が何を信じてようと、そんなことは少女には関係ない。

 少女は、その全てを跡形もなく消し去ってしまいたいのだから。

 男の今迄進んできた道程、これまで歩んできた軌跡。

 自分と袂を分かってから彷徨い続け、遺してきた足跡の全てを。

 何故ならそれは、他人の為に進むしかなかった道だから。

 他人に歩かされた道に過ぎないからだ。

 自分が歩むべきと信じた道が、ただ後ろを付いてくる誰かの道を切り拓く為でしかなかった。

 自分が進まなければと想った道が、誰かが踏むための道を舗装しているだけだった。

 そんなことは許せなかった。

 そんな誰かも解らぬ烏合の衆を理由に自分を受け容れないなどと。

 そんなことを、少女が許せるはずがない。

 ならば、少女が採るべき道は唯ひとつ。

「そこまであなたが仰るのでしたら、あなたにそこまで言わせた無駄で無価値な塵芥のその全て。あなたが縋り寄る辺とする脆弱な繋がりのその全て。わたしが綺麗に断ち切って、何もかも失くして差し上げます」

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