68日目 金魚すくいの金魚
水の中にいる。
この間とは違い、水は透き通っていてよく見えるし、底の浅いこのプールの様子もよく分かるし、そのプールを動き回る今日の俺の同族たちの様子も把握できるし、極めつけには俺たちを見つめる人間たちの姿も水面越しに把握できた。
空は夕暮れ模様。
俺を見つめる男女は、手をつないで、色違いの浴衣を着ており。
プールの中には、赤い金魚たちが思い思い泳いでいる。
どうしようもなく、縁日だった。
「1回お願いします!」
男が店番に声をかける。ポイを受け取る。
「がんばれ~」
「何匹すくえばいい?」
「好きなだけ」
「ゼロだったらごめんね」
男は袖をまくり、ポイを水面に浸す。そして――俺の隣にいた金魚の下に差し入れ、引き上げた。意外とうまくすくい上げたらしい、裂け目ひとつつかずに、俺の隣魚はスチロールのボウルの中に隔離されてしまった。
「おお~」
「まぐれだよ」
「でもすてき」
「ありがとう」
なーんて月並みな会話をしている彼らのことが、ちょっと邪魔したくなった。
……もうちょっと、耐久性が落ちるの待った方がいいかな。深めに潜っておいてやり過ごす。というか俺の周りの金魚たち、危機感が全くないのがすげー気になる。自分がすくわれるかもしれないという発想がないらしい。
彼が4匹目をすくい上げた頃を見計らい、俺は動く。浮上し、水面ギリギリ、彼から見て手前の隅っこにふよふよーと躍り出る。
ほらほら、俺が狙い目だぞ~。
案の定、ここまで無傷のポイを携えた男は、きょろきょろと見回したあと俺にターゲットを絞る。ポイが腹の下にやってきて、体が持ち――
上がるのを感じて、俺は暴れる。別に不自然じゃないよな?
や、金魚すくいのすくわれ側になったらこういうのやってみたいじゃん。絶体絶命のところからの脱出。ね?
体力はMAXだろうからそんなに威力は出なかったかもしれないけれど、とにかく俺はじたばたしてポイから飛び出す。跳ね際、尻尾で思いっきり紙の面をぶっ叩いてやる。
「活きがいいなあ……」
「残念……」
ぽちゃんとプールに戻ってからポイを見ると――しっかりと、穴が開いていた。うし。
このあとも、退屈な転生生活を紛らわせるように、俺は、暴れ回った。
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