49日目 コーラから溶け出た二酸化炭素

 目が覚めたら、茶色い液体の中を急速浮上していた。

 冷たい。揺れる。水面に出る。ぱちん。


 が弾けた瞬間、意識も弾ける。


 次の瞬間には、俺はまた茶色い液体の中に戻る。急速浮上。ぱちん。


 ちょっと待てと思う間に、俺は液面に向かっていく。止まらない。ぱちん。


 お、今回はガラス面にくっついた。ちょっと余裕がありそうだ。ガラスの向こうには、男の顔がだいぶ大きく見えた。今日の俺はだいぶちっちゃい――って、まあだいたい何になってるかくらい想像つくけど。

 あっちょっおま持ち上げちゃったら――ぱちん。


 液面に達した瞬間は、意識が消えてしまうのではなく、ほどけるような、拡散していくような、もっと大きなものに取り込まれるような、そんな感じのイメージ。


 ぱあっと拡散しては、また水底でぎゅうっと生まれ出る、みたいなサイクルをしている。

 それでもって、何度巡っても茶色い液体の中にしか出てこないということは、そういうことなんだろう。ぱちん。


 今日の俺は――「コーラの中の気泡」になってしまったようだ。当然、神様を殴ることなんて(ぱちん)


 ――できやしない。殴る前にこの身が消えてしまう。


 ……にしても。上まで登っていったときのこの、ぶわっと広がる感じはなんなんだろう。

 ほんとに、世界全体に俺の意識が――(ぱちん)


 って、そういうことか!

 それまではコーラの中で独立していた二酸化炭素の泡が、大気中の全ての二酸化炭素と接続されて――(ぱちん)


 あのような、意識がどこまでも広がっていくような感覚が生じるわけだ。なるほどな。ぱちん。


 んでもって、今日の俺は「コーラの中の気泡」だから、そうじゃなくなった瞬間に別の個体(気体だけどな!)に移されちゃうわけだ。ぱちん。


 なるほどな~~~~~。ぱちん。


 仕組みさえ推測してしまえば、これはこれで、結構楽しめる。ぱちん。


 よーくコップの向こうを観察して、どんなところに出たのかガチャもできるし。ぱちん。


 ……はあ。

 たまには、食べられる側じゃなくて食べる側になりたいなあ。

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