50日目 尿管結石
目が覚めたら、チューブの中にいた。
真っ暗だから外の様子は特に見えないけれど、何かしらやわらかい素材でできたチューブの中を、ずるり、ずるりと動いているのはなんとなくわかる。
……なんだ、これ?
うーん。
しかもそのチューブは固定されているわけではなく、色々な方向に動くらしい。
縦になったり横になったり。水平に移動したり。
動くときのリズムは、まるで人に運ばれているようで。
……これ、もしかして、人体の中では? や、動物の中ってこともあるか。
◆ ◆ ◆
「山住さん! 背中はいつから痛みますか?」
「明け方、から」
ローンで買った一軒家に住み始めてからかれこれ15年。
早朝の山住家に、大黒柱の呻き声が響き渡った。救急要請。
「高血圧と言われたことは?」
「ないです」
搬送された大きな病院の救急センターで、医師が問診をしていた。
「お酒は飲みます?」
「飲み、ます」
痛いから、のんびりインタビューをするんではなくて早くこの痛みをなんとかしてほしい。
「どれくらい? 頻度です」
「毎晩……」
「ビールでしょうか」
「ビールを。2缶くらい」
医師はパソコンに向かって何やら書き込んでいる。早く痛み止めがほしい。
「山住さん、ではですね、CTを撮らせてください」
山住は頷いた。いいから早く楽にしてくれ。
寝たまま、医療スタッフに囲まれ、CT室に運び込まれる。
痛みをこらえて息を止めて、下った診断は――
「尿管結石ですね。ほら、ここに」
山住には何が何だかわからなかったが、医師の指先を見ると、確かにそこに白い点があった。
「手術、ですか?」
「いえ。基本的にはこのサイズですと、自然に出てくるのを待つことになります」
「しぜんに……」
彼の顔が曇ったのは、痛みによるものか、はたまた。
「ああ、もちろん痛み止めは出しますので、ご安心を」
◇ ◇ ◇
体の外の声って、聞こえることあるんだな。
どうも歩いてる感じがしないと思ったら、あれはストレッチャーに乗せられてたわけだ。なるほどなあ。
……というわけで、本日の俺は、なんか、山住さんとかいう人の体の中にできた石のようだ。
当然、神をぶん殴るなんてことできない。いっそ神の尿管結石になればよかったのに。神の尿管結石ってなんだ? 金ぴかなの?
……まあいい。
山住さんがんばれ。早く俺を出しちゃえ。
あ、でも今日中じゃなくていいよ。尿と一緒に先っぽから出されるの、ちょっと嫌だから。
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