37日目 高評価ボタン

 目が覚めたら、電脳世界にいた。

 フリートの時で学んだ。この感覚は、間違いなく、インターネット上の何かになっている。物理的な体はないけれど、身体の感覚はある、のだ。感覚というよりは、ただの当たり判定なのかもしれないけれど。とにかく、電子データの体特有のそれである。


 うーん。今日はなんだろう。

 ひとつだけわかることは――今日も、神様をぶん殴るのは難しそうってことだ。


 ◇ ◇ ◇


「はいどうも! 鳥さん大好きYouTuberのKamomeです!」


 ぼーっとしていたら、突然、こんな声が聞こえてきた。上の方から・・・・・

 えっ。

 今、ユーチューブって言ったよな? そういうこと?


「今日の企画はですね、こちら!」


 画面は見えないけれど、声だけは聞こえてくる。

 そういや、これを見てるのは誰なんだ? 視界を開く。椅子に座ってイヤホンをつけた男が、つまらなそうに画面を見ている。キーボードでかちゃかちゃやってるから、何か別の作業中なのかもしれない。


『バードウォッチングしながらメントスコーラを飲めるのか?』


 アホでしょ。できるわけないじゃん。

 動画を見ている男も、ちらりと視線を向けて首をひねった。


「はあい。こちらやっていきます」


 家の中でやるよりは片付けが楽な分いいのか?


「ではさっそく、いつものスポットに移動していきましょう!」



 移動した先の公園でわーわー言いながらコーラをなんとか口に押し込む様子を聞きながら、今日の自分について考える。


 電脳世界。

 YouTubeと言っていた。

 動画を見てるっぽい男が目の前にいる。

 上から声が聞こえてくる。


 以上から考えると、YouTubeの、動画の下の部分にいる何かと考えるのが妥当。


 というか、この男以外、俺にアクセスしている雰囲気がない。前のフリートはリクエストされたらぽぽぽぽんって分裂したんだけれど、これは一切ない。

 Kamomeさん、きっと、登録者数全然いないのにがんばってるんだろうな。動画を出すだけでも偉いよ。


「こんな動画でも面白いなって思ってくれた人は、高評価とチャンネル登録をよろしくお願いします!!」


 いつの間にか動画が終わっていた。YouTubeあるある、高評価のお願いである――と、動画を見ている男が、マウスを握り、俺を押した・・・・・。押された。

 端末側の分身から、俺の本体に信号が送られてきて、確信する。

 どうやら、今日の俺は、高評価ボタンだったらしい。


 この動画についたグッドは2個目。がんばれ、鳥さん大好きYouTuber。

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