35日目 自動改札機(磁気券のみ対応)
♪ピッ
♪ピピッ
電子音で目が覚めた。
目覚ましじゃないけど、朝、眠い中、よく耳にしていた音だ。
地面にかっちりと固定された俺の口から、カードが入ってくる。
俺の消化管……じゃないけど、そんな感じの機構ががしゃごしゃと動き、入ってきたカードを尻まで運んでいく。俺が意識してるわけじゃない、そうあれという祈りを持って今日の俺の体は作られており、そうあれと願われた通りに動く。
たぶん中で情報をチェックする仕組みもあるんだけど、そっちもよくわからん。ま、通しちゃダメなのがあったら勝手に体が動いて
もうわかってるんだけど、目を開ける。
♪ジリリリリリ
「2番線、発車します。ご注意ください」
どたどたと走って隣を抜けていくサラリーマン。
♪ピロン ピロン
間に合わなかったようだ。駆け込み乗車は危ないぞ。
と、いうわけで。
よく知らないけど、それなりに利用者がいるからそんなに僻地でもない駅で、今日の俺は自動改札機になっていた。
◇ ◇ ◇
俺がいるのは、5個の改札が並んだ端っこ。隣の仲間たちは頭のところにICカードリーダーを搭載しておりピッとかピピッとか音を鳴らしてスーツ人の群れを受け流しているのだが、端の俺にはそれがついていないようだ。妙にすいてておかしいと思ってよくよく考えてみたらこれだよ。
あ、来た。ベージュの大きいハンドバッグを持ったお姉さん。俺に切符を入れ――ない。
ICカードの使い手は、すいている俺のところに吸い寄せられ、頭の上にICリーダーがないことに気付き、すごすごと下がっていく。ごめんよ。いや俺悪くないんだけど。
お、今度こそ。おじいさん。がしゃこん。
早く尻のところの切符取ってくれ。取られるまで、トイレ行った後妙にすっきりしない時のあの感じが続くんだ。
次はこの兄ちゃんか。よしまかせ――って、これなんかちが――ちょっとま、吐き出させ――できない。
♪ピポン ピポン
兄ちゃんに変なものを入れられた。俺はゲートを上げて音を鳴らし、駅員を呼びつける。
「……へ?」
変なものを入れた兄ちゃんが、自分の手を見ている。左手には切符があった。なぜそっちを入れない。
「やっべ、ガム入れちった……」
え。ガム? まって、食べたい。食べさせろ。甘い味。味がほしい。
ガムでもアメでもチョコでもいいけど、俺に味をインプットしてくれ。飢えてるんだ。マジで。
……いや、俺食べたあとでしたね。どうして味覚機能がついてないんだ。
それ以前に包み紙に包まれてるか。もうダメダメだわ。
「切符とガム、入れ間違えちゃいました、すみません」
駆け付けた駅員に兄ちゃんがこう言うと、制服姿の駅員さんはえいやっと俺のお腹を開けた。人間だったら死んでる。でも、妙に気持ちいい。解放感というか、なんというか。風が腹の中を吹き抜けていく。
……これだけ気持ちいいなら、人間じゃないのも、たまには――ごくまれになら、ありかもしれない。毎日は勘弁だけどな!
神様、たまには俺を高等生物に転生させてくれないかなあ。
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