22日目 映画館のスクリーン
目が覚めたら、吊るされていた。
薄暗い部屋の中で、天井と床と壁から伸びたワイヤーに、しっかりと固定されている。
これが人間だったら大事件になっているところだけれど、あいにく今日の俺は人間じゃないから大丈夫だ。
目の前を見る。椅子が、階段状に並んでいる。それはもう、ぐわっと。一番上の段は、俺の視点より上。だいぶ広い。
今日はすぐに分かった。俺は、映画館のスクリーンになっている!
今日も動けない。神様へ文句をぶつけるのは、やっぱり難しそうだ。
◇ ◇ ◇
しばらく薄暗い部屋で椅子とにらめっこしていると、天井の照明がぼわっと点いた。映画が始まる前の映画館くらいの明るさになる。……要はそういうことだ。これから客が入ってくるのだろう。
ドアの方を注視していると――開いた。最初に入ってきたのは制服を着たスタッフで、そのままどこかに消えていったけれど。しばらくして、客がぽつり、ぽつりと入ってくる。
まばらに、座席が埋まっていく。俺で上映される作品はそこまでの人気作ではないっぽい。いや、平日か休日かも分からないから迂闊なこと言えないけど。知ってるシリーズだといいなあ……
そんなことを、ぼんやり思っていると。
視野が、強烈な光にジャックされた。うおっまぶし!!
数秒で慣れた俺の視覚に認識されるのは、
スクリーンの白い面の全面が網膜に相当している、といえば伝わるだろうか? 映像が、隅から隅まで、クリアに、認識される。眩しいけど。CMに出てるローカル局のアナウンサーのまつ毛の一本一本まではっきり見える。すげえなこれ。
音は、俺の後ろから聞こえてくる。映画館はスクリーンの裏にスピーカーが設置してあるって聞いたことがあるから、きっとそういうことなんだろう。
いやー、にしても、左右反転してても文字以外ならなんとかなるもんだな。これ、映画本編楽しめるぞ。わくわくしてきた。
だって、だって。
娯楽があるなんて、久しぶりすぎる。
いいとこ生物、悪けりゃただの物体、概念なんて場合もある。人の身だったら当たり前だったスマホもなければ本もない、テレビもない。
そりゃあ、想像したこともない奴らに転生するのは、ちょっとだけ、ほんの少しだけ、楽しさがある。目が覚めて、自分がどんな物になっているのか想像するのは楽しい。
でも、それだけだ。
1日は24時間。人だったら、起きて、ご飯食べて、テレビ見て、スマホ見て、学校行って、スマホ見て、トイレ行って、スマホ見て、家帰って、ゲームやって、ご飯食べて、スマホ見て、寝ていたところを、まあだいたいの転生先では、ただ退屈してなにかを待っているだけだ。
飽きそうになる。
それだけに――今日は、これまでで最高の日だ。
人間が、たくさんの人間が自分の命を削って作った、最高の娯楽を観られるのだから。
めいっぱい、楽しむぞ。
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