第2話 めんどくさい人が来ましたわ

部屋の前の廊下からはドタドタと騒がしい音が私の部屋に近付いてきました。

誰かの訃報や事故などの緊急事態なら仕方ないのかも知れませんが、きっとしょうもない事だと思いますわ。

何故、分かるのかって?

そんなの直感です。

そして、もう一つ分かる事は、今から来るであろう人物も先程の人物と同じくしてお馬鹿さんだと言うことです。


はぁ…

やっと穏やかな時間を過ごせると思ったのに今度は一体どんなお馬鹿さんですか?


ガチャッ!!


ノックもなく突然部屋を開けられて、いつもの可愛らしい作り笑顔では無く、とても嫌らしいお顔をした愚妹が立っていました。

予想を裏切らない登場ありがとうございました(棒読み)


「お姉様聞きましたわよ!!遂に婚約破棄を言い渡されたそうですわね!!」


なんてマナーのカケラも無いお馬鹿さんなんでしょう…

全く、一体誰がこの子の淑女教育をしたのでしょうか?



……………………………



あ、私でしたか。



おほほほーこれは失礼致しました(棒読み)

本来御母様、又は専門の講師に淑女教育を受けなければ貴族令嬢の恥と言われているのにこのお馬鹿さんは『勉強は嫌いですわー』『もっと遊びたいですわー』『怒られるのは嫌ですわー』とワガママ言い放題、泣き喚き放題と困らせた挙げ句、『こんな嫌な事ばかりやらされる位なら死んだ方がマシよー!!うわーん!!!』とまで言い屋敷の屋上から飛び降りる振りまでしました。

勿論落ちる気も死ぬ気も更々無い事は容易に考えれますが私の周りの方々は心根が良い方々ばかりで『これ以上彼女を傷付けるのは可哀想だから無理に淑女教育を受けさせるのは辞めようか…』と話は纏まった…筈だった…

見た目だけは麗しい愚妹をあろう事か御父様は『折角見た目だけは整っているから、多少の教養さえ、出来れば良い婚姻先に恵まれるかも知れない…それに、このままこの子を諦めるのは可哀想だ』と無駄な優しさが芽生えたせいで諦めると言う選択肢が無くなり、最終的に『血の繋がった姉の言う事なら聞くに違いない』と押し付けられました。

このまま諦めてくれた方がめんどくさくなかったのに…あらあら、また暴言を失礼致しました。


そんな訳で私が愚妹の教育係になってしまいました。

勿論、タダでした訳ではありませんけど…今はそのお話は割愛させて頂きます。

今はこの愚妹をどう部屋から追い出すかと言う問題です。


「はぁ、クルシュ…淑女なら部屋に入る前に先ずノックをして中の方に許可を得てから入る事がマナーですわよ?それに、いい年齢をした淑女なのにあんなに大きな音を立てて廊下を走るなんて淑女以前の問題です。貴女ら学校で何を習っていますの?」

「姉妹なんですからそんな事どうでも良い事ですわ!!」

「姉妹でも血の分けた他人です。他人ならどんな相手だろうと貞淑な対応を務めるべきだと教えましたでしょう?」

「もうー!!お説教なんか聞きたく無い!!それよりもやっとルードヴィッヒ様が婚約破棄を言ってくれたのよね?そうなのよね?」

「貴族マナーはおろか一般マナーすら出来ないお馬鹿さんとはお話出来ません。お引き取りください。」

「ちょっと私が聞いてるじゃ無いですか!!答えなさいよ!!」

「お断りします。」

「答えなさいよ!!」

「お断りします。」

「同じ事しか言えないの!!」

「遠慮します。」

「言葉を変えても同じでしょ!!私を馬鹿にしてぇ…」


短気な愚妹は、何度言っても答える気の無い姉に怒りの限界が来たのか私の頬を思いっきり叩こうと私に近付いてきました。


「はぁ…相変わらず口の聞き方がなっていませんね…お仕置きですわよ…」


私が指パッチンを鳴らすと部屋は急に冷たくなり、愚妹の足元からお腹まで凍ってしまい身動きが取れなくなってしまいました。


「うゔ…魔法を使うなんて卑怯よ…ガタガタ…」


急に凍ってしまった為、身体中の体温は一気に下がり、歯軋りを始める。

凍傷による痛みもあり、苦痛以外の何者でも無い状態にしてさしあげました。

まぁ、マイナス0度の世界が突然広がったらそれはそれはとても寒くて凍えてしまうでしょうね。

でも、これはあくまでお仕置きですから、仕方のない事ですわ。


私は人より魔力の量も能力も高く多種多様な魔法が使える特殊な人間です。

殆どの人間が魔法が使えないこの世界で私は稀有な存在ですわ。


この能力を、活かして愚妹を調き…暴言を失礼致しました。

教育を施しました。

因みに愚妹の飛び降り発言の事件が起きた時はこの魔法をフル活用し、『本当に死にたいのなら飛び降りてはいかが?お手伝いしますよ?』と親切にお手伝いすべく、屋上にいる愚妹をそのまま宙に浮かせ、『さぁ、落ちたいタイミングを教えてくださいね』と準備万端にしていたら愚妹から『じにだぐなぁぁぁーい!!!』と今度は生きたいと泣き出されました。

なんてワガママな子なのでしょうか…

それなら最初からそんなしょうもない事言わなければ良いのに…と我が愚妹ながら呆れてしまいたわ。

この出来事がきっかけで私が教育係に選ばれてしまいました…お手伝いしなければ良かったわ…

教育係をして下級貴族並みには育てましたが何分、本人がやる気無く、直ぐにサボろうとするので恐怖で教え込ませた為、上流貴族令嬢程素晴らしい令嬢まで出来なかった事を悔しく思います。

もっと痛め付けて教育すればこんなお馬鹿さんにはならなかったのかしら?

まぁ、過ぎた事ですけどね?うふふ…


因みにこの能力は家族や使用人達しか知りません。

能力を晒して仕舞えば、王族との婚姻が決まりますが、私の趣味に費やする時間が無くなってしまいます。

それはお断りしたいのでスパニッシュ家では緘口令をしいています。

この口の軽そうな愚妹ですら一応守れているらしいです。

まぁ、黙っている理由が姉が私より優秀だなんて周りに思われたくない又は私が今まで施した恥ずかしい淑女教育と言う名の黒歴史をバラされたくないからでありますわ…きっと。


「いづもぎみが悪い魔法使っで貶めるなんで恥ぢがじぐないの!?」

「貶めるのではなくこれは教育です。貴女はグズでお馬鹿なので言葉では私の言葉の意味が伝わりませんので体で教えて差し上げているだけですわ。」

「魔法なんてずるいぃー」

「貴女が淑女らしい対応が出来ていればこの様な事は致しませんわ。貴女が出来損ないだから悪いのです。」

「ゔゔー…ぞごまで言わないでも…分かりまじだ〜!!もうじまぜんー!!」

「なにをしませんの?」

「おお姉ざまのべやをノックじまずぅー!」

「それだけではないでしょう?」

「ろゔがは、ばじりまぜんー!」

「それから?」

「お姉ざまのおばなじはちゃんどぎぎまずー!」

「うーん、どうせまたやらかすと思いますがまぁ及第点としてあげましょう。よろしい。」


私が再び指パッチンすると魔法は解けていつもの部屋に戻り愚妹を固める氷も溶けて消えました。

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