魔法力あげすぎ令嬢。ステータスバグってませんか?それで正常なんですか?普通の人間ですよね?
仲仁へび(旧:離久)
第1話
魔法力を上げすぎた貴族令嬢が目の前で、光の魔法を放った。
その魔法は、またたくまに視線の先にある魔王城をのみこんでいった。
ドォォォォン
まばゆい光が一瞬、瞬いた後、大きな爆発が起こる。
すると、魔王城は一瞬にして消滅。
後に残るのは荒野のみだった。
吹きすさぶ風で土煙が発生したが、それが晴れたら大地の上には何も載っていない。
まっ平になっていた。
すさまじい魔法力だ。
この魔法を放った彼女は普通のお嬢様だったらしいが、何の変哲もない女性がいきなりこんな強大な力に目覚めるわけがない。
一体どうして、こんな事になってしまったのだろう。
俺達は勇者だ。目標は魔王討伐。
魔王は、各地でモンスターを暴れさせていて、人々を困らせているから、俺達がその悪の根源を倒さなければならない。
けれど俺達のパーティーは今、戦力が足りていない。
だから、魔王討伐に臨む旅の中、力の強い者を見つけたら、その都度スカウトしていく事になった。
勇者というよりは勇者候補といった方がより詳しい分類かもしれない。
俺達のような存在は他にもいるからだ。
一人に全部の期待を背負わせて、送り出すより、保険はいくつもかけておいたいいだろう。
だから勇者という立場は、国が催したとある試験を突破した人間全員が名乗っている現状だった。
そんな中、一人のご令嬢が声をかけてきた。
見とれるくらい綺麗な人だった。
歩く宝石と例えても良いような髪と瞳。
なのに身に着けているドレスは、ひどく質素で浮いている。
「勇者様、私を仲間に加えていただけないでしょうか」
それは、大きな都市に滞在していた時の事だった。
数日前に、魔物が都市を襲う出来事があったのだが、その時に助けて知り合ったのだ。
ドレス姿で放浪していた彼女が魔物に襲われるところだったので、割って入って知り合った。
そんな彼女は、婚約者から婚約破棄されたばかりの貴族令嬢で、その失態で実家から追放されてしまったらしい。
「所詮あの家にとって私はただの道具だったのでしょう。両親は、可愛がっていた妹さえいれば、それでよいのです」
家族からも冷たくされ、使用人からは悪口を言われていて、婚約者に捨てられてしまった可哀そうな女性。
いく当てがないと言うので仕方がなく、数日だけ仲間に加える事にした。
「ありがとうございます勇者様は優しいですね」
「いや、そんな事はない」
普通なら、一人の人間にそこまでの親切は働かないが、彼女は驚くほどの魔法力があった。
ステータスをみせてもらって、その時にビックリしたのを覚えている。
だから、こちらの戦闘についてこられるのなら、有益な存在になると思ったのだ。
それから三日間、俺達のパーティーに加わった彼女は、その力を存分に発揮した。
火の初級魔法でモンスター一匹を倒すために、大火事を引き起こしかけたり。
水の初級魔法で料理をしようとしたら、大洪水が起きかけたり。
ちょっと問題があるが。
確認したステータスでは、魔法力の数値が上限である9999の数値を突破していた。
思わず仲間の一人が「ステータスバグってませんか?それで正常なんですか?普通の人間ですよね?」と若干失礼な事を口走っていた。
勇者の俺ですら8000ちょっとくらいであるのにもかかわらず、だ。
歴史の中を見ても、9000の数値になった物は数人しかいない。
彼女がどうしてそんな魔法力になってしまったのか理由は分からなかったが、こんな可能性のかたまりを手放すわけにはいかなかった。
だからそういうわけで、彼女にはこれからも、俺達のパーティーに正式に加入してもらう事になった。
「よろしくお願いしますね。今はまだ制御できませんが、その内しっかりと役立って見せますわ」
それからの旅路は、どんどん楽になっていった。
魔法の制御ができるようになった彼女が、どんどん強大な魔法を使ってモンスターを一層していったのだから。
時にはモンスターの大群に囲まれるような事があったが、それも彼女の力があれば大した障害にはならなかった。
しかし、そんなすごい魔法力の強さが備わった理由はまったくわからないまま。
魔法力が成長するには、命の危険にさらされたり、コンプレックスを克服したり、トラウマを乗り越える事が必要だと言われている。
しかし、ただの貴族令嬢がそんな目に遭う事があるはずもないのだから、何か別の要因が関係しているのだろう。
きっと、誰もが見落としている落とし穴があるに違いないのだ。
「何か特別な訓練とかはしていないのだな? 普通に日々をすごしていただけなのだよな?」
彼女は「はい、特別な事は何も」と言っていた。
順調に強くなっていった俺達は、ある日突然魔王と対峙することになった。
魔王は、勇者が育つ前に、可能性の芽をつぶして回っているらしい。
その邂逅がはたされたのは、各地で目撃証言が増えていった時期だった。
運が悪かった。
「とうとうこの時が来てしまったのか」
俺達はまだ訓練を積んだり経験を積んだりしなければならないパーティーだ。
万全と言い難い状態だが、勇者と名乗っている者として魔王を見過ごすわけにはいかなかった。
俺達は決死の想いでそれぞれの武器を手に取った。
しかし「私も負けません」と光の魔法が放たれたしゅんかん、魔王が一瞬でふっとんだ。
ドォォォン
という盛大な音と土煙が晴れたら、そこには何もなかったのだ。
その時に「えっ?」と思わず間抜けな声を発してしまったのは俺だけじゃないはずだ。
その後、魔王の目撃はぱったりと途絶えてしまった。
各地のモンスターたちも、混乱したように行動しだしてまとまりを欠いているらしい。討伐軍によって順調に討伐されていっていると聞く。
確かめるために魔王城の元まで旅をして、攻撃を加えてみたが、大きな反応はなかった。
かなり拍子抜けした終わりだったが、被害が少ないに越したことはない。
結局、彼女の魔法力の大きさは分からなかったが、世界が平和ならそれでいいだろう。
魔法力の強さで魔王も魔王城も吹き飛んでしまったため、魔王を倒したという証拠は残らなかった。
討伐の証明ができないため、かねてから魔王討伐者に約束されていた名誉も宝物も手に入れる事はできないが、皆が笑ってすごせるのなら、それに越したことはないだろう。
その後、パーティーは解散して、俺達はそれぞれの道を歩み始めた。
商人を始めたり、鍛冶師になったり色々だ。
俺はというと、貴族令嬢だった彼女と退治屋を始める事にした。
損得から生まれた関係だが、何事にも懸命に力になってくれようとした彼女と共にいるのは楽しかったし、これからも一緒にいたいと思ったからだ。
そういうわけで、未だ各地でモンスターが暴れている事態を解決するため、困っている人々を助けようと旅に出た。
二人旅を始めた夜、魔法力をあげるために瞑想していた彼女が話しかけてきた。
「君はお金持ちのお嬢様だったんだろう。今さらだがこの生活が、辛くはないのか?」
「勇者様の旅についていっている時も今も、健康的な生活が遅れて幸せですわ」
「そうか? 非常食ばっかりだったし時にはモンスターのの肉とか食べなくちゃならなかっただろうし。それに見張りが必要だからろくにじっくり眠れなかったはずだが」
「あら、食べる物があるだけ幸せですわよ、昔の私のように自分一人でモンスターと戦ってお肉をとらなくちゃいけないわけでもないですし。寝ている所をたたき起こされて嫌がらせされるような事もありませんし。それに、毎回寝ている間にモンスターの生息地につれていかれて捨てられる事もないですしね」
俺は、その瞬間、特別は事は何もやっていないと言っていた彼女の言葉の意味が分かった。
魔法力あげすぎ令嬢。ステータスバグってませんか?それで正常なんですか?普通の人間ですよね? 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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