別世界物語
七草粥
銃口
こめかみに感じた銃口の、冷たい鉄の感覚。指にちょっと力を入れるだけで全てを終わらせる事ができると考えると、少し恐ろしくも得意な気持ちになった。自分の人生が初めて自分のものになったかのような、そんな気持ちに。
窓を少し空けておく。そうすれば自殺に気付いた誰かが駆け寄ってくれると思ったから。遺書は机の上に用意してある。この世の理不尽に対する侮辱や嘆きを、幼稚にひたすら書きなぐったそれは、開け放った窓から吹き込んでくる風に飛ばされないよう、しっかりと文鎮で留められていた。部屋の整理整頓も済まし、着ている服も新調したもので、湯浴みも済ませてあるから清潔そのものだ。ただ一つ、血が飛び散るのが気になったが、自殺を派手にしてくれる一つの要素だと妥協した。
遺書は一枚だけ。なぜなら家族も友達も知り合いもいなかったから。会う約束も手紙の予定も何一つなく、訪ねにくる友人も何もなかった為、なんの未練もなく死ねる。死ぬ理由は沢山あるが、決定的なものは何一つない。誰かに虐められていた訳ではないし、誰かに嫌われていた訳でもない。なぜならその「誰か」すら、自分には居なかったのだから。虐められていたのならまだ注目されてよかった。空気でいるよりも余程ましだったろう。
全く注目されない人生だった。必死に飛び跳ねても誰にも注意を向けられず、それが原因で非行に走ってもお咎めすらされなかった。いつからか自分の存在を疑いはじめ、存在意義を見つけようと苦悩した頃に自殺を決意した。当初は街のど真ん中で、派手に脳天をぶち抜いてやろうと思ったが、それでは誰かを巻き込んでしまうかもしれないと考えてやめた。別に人類に恨みがあった訳ではないのだから。
最後に僕が望む事はただ一つ。誰でもいいから僕の自殺に気付いて、そして悲鳴を上げて欲しい。
別世界物語 七草粥 @mmm1595
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