第10話

 わたしの現実は脳が見る夢。

 

 怠惰で保守的な、正常性バイアスの揺り籠で日々微睡む。

 

 世界は心象の鏡だと云う。

 

 天国も地獄も、心の持ちよう一つだと。

 

 否、地獄は在る。

 

 それは正に今此処に、

 

 ここが、雨の大宮駅前が、そうだ。

 

 もし仮に人間の聖性、

 

 性善説、

 

 死刑廃止論者、

 

 その他もろもろ、

 

 誰でもいい、今この光景を見たらなら、なるほど人間は性悪なのだ、我々の滅亡は不可避なのだ、人には法と罰が必要で人は法に従わなければ社会秩序の維持など不可能なのだ産まれてきてごめんないさいと人類総数全員が納得する。


 元来身障者以外乗降を許可されていないターミナル最前の路上は一般車で埋め尽くされ横断禁止と赤文字大書されたバス乗り場と駅階段間をブンモウかガイジンかは知らねど無限行進そしてプールに溢れるタクシーと乗車待機列鳴り止まぬ怒号クラクション嗚呼大宮原人交通地獄。


 或いは、と太郎は妄想する。

 これは現代の城下町戦略なのだろうかと。

 

 格子戸を~くぐりぬけ~見あげる夕焼けの空に~

 だれが歌うのか子守唄~わたしの城下町~

 なるほど、女帝、小柳ルミ子さんに相応しい、城主だったのか。

 

 違います。

 そんなロマンチックなものではない。

 

 要するに肉壁なのだ。

 敵から攻め寄せられた際の前進防御拠点。

 城まで侵攻する敵戦力への漸減打撃陣。

 城を護る第0号の空堀。

 

 これを現代戦に当て嵌める。太平洋側、わ、米帝相手に第二次太平洋戦争吹っ掛けても敗北必至であるので除外。日本海側、武運拙く海空戦に敗れ敵の、大陸か半島かロシアかシナか半島かはともかく舟艇機動か何か、着上陸侵攻を阻止出来なかった、と。

 因みに個人的見解との事だが某J隊さんはこの時点で政府は交渉のテーブルに着くでしょうと、現代戦で制空権取られて徹底抗戦とかナンセンスでしょHAHAHAと。

 まあここは最悪、つまり政府がこの時点で当事者能力を喪失している、全員敵前逃亡か或いは他、相手は戦争を終わらせる為に城下の誓いを掲げて我が国首都目指し南下してくるレイドオントーキョー。

 はい問題です、その侵攻ルートの確保は?。

 三国峠越えとか一般車だって難儀するのに機甲師団が通過出来ると思う?。

 東部戦線でも鉄路は補給線そのもので、

 17号のドモモまで。

 

 余計な一言、

 

 近くて済みません。

 


 済まんと思うなら腹を召せ。


 

 タクドラの囁きに客は怪訝顔。

 聞き取れなかったか、聞き違いか。

 幸いまだ、お宅のタクシーから切腹を脅迫されたというクレームは無い。

 

 済みません、とは済まない、取り返しが付かない、お詫びのしようがない、謝罪の最上級表現であり、言葉を尽くしてどうなるものでは無い多くは切腹を以ってこれに変えて来た、日本民族の優勢淘汰、自殺、切腹、特攻、過労死、死んだ日本人だけが良い日本人だ、記憶にございません、秘書がやった、生きている我々は外道か屑か、感性を殺して生き延びている屍。


 挙句に大きいのしかないんですけど、いいですかと万札を差し出した客をご利用有難う御座いましたと追い出し、タクドラは独り苦笑。

 


 言葉が、軽い。

 

 命を惜しむな、名を惜しめ。

 

 さて、どっちがいいのか。



 贄。


 

 不意にその語が、記憶が車内に響く。



 命を惜しむ今の日本人はしかし、命を軽視する。

 

 歩き、走りスマホ、親子殺し合い、麻薬より危険なアルコール飲料野放し、強電磁波、添加物漬食品、砂糖、

 


 交通死亡事故。


 

 一時は年間1万6000人を超えていた交通事故死者数が1万人を割り、近年は5000人以下、統計開始時を下まわる数となり、史上最小の交通事故死者数を記録。

 


 3532人。


 

 現代の人柱。

 多いか少ないか。



 我が国総人口の推移は、弥生時代60万を起点とすると、各種学説総計より、安土桃山の頃には1000万大台突破、以後急速に伸び江戸末期には3千万、大正5千、70年代で遂に一億総中流。



 無神論者でも初詣には行くだろう、或いは七五三には。



 産まれてから一度も、神社の鳥居を潜る事無く一生を終える人間がこの国に何人居るだろうか。

 

 神は加護を与える。

 

 では、加護を外せば?。

 

 其の者は、神に刈り取られる。

 

 召し上がられる。

 

 ご馳走様でした。

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