第25話

 なぜ父は、私は、

 

 死なねば、

 

 私がこの手で、腹の上でこ、こここ殺、

 

 

 思春期は多感だ、悩みは尽きない、

 その其々は各人にとっては世界そのものであり本人にしか理解不能な最難関であり、他者に取っては不可知でアンタッチャブルな、教えや救いを乞われしときはじめてそっと手を差し伸べ或いは無言で、

 

 やーあたし、小六んとき家に帰ったらいきなりオヤジに押し倒されちゃってー、でちょっちイヤボーンって、使役出来ない、しちゃいけない筈の護鬼がこう、ぷちっとミンチにしちゃってーさーもー血まみれだわアソコは痛いわ式に反応したキクの即応まで踏み込んで来るわ大騒ぎでさー。

 

 あー俺もそう。

 小六あるあるだよねー。

 分かる判る!。

 

 

 いやそれはない。

 

 

 で、深香は或る日を境に、天然爛漫元気聡明ネアカスクカ最強美少女が一転、机にタヒネと切り付けられようがトマトを投げられようが望まれるままに股を開こうが総て一片の冷笑に変じさらりと受け流し黒縁をそっと押さえるだけの、深淵に覗かれてもへらっと微笑み返しで退魔退散させる闇堕ち美妖女にクラスチェンジしてしまった。


 あの日、我が家に、わが身に何が起こったのか。

 

 父は、不器用で武骨で言葉より手が出る典型的な、しかし直ぐに弱き己を恥じ涙交じりに詫びる父は、いきなり突発ペド覚醒した、のではない。

 

 血。

 

 旧大陸など王族間で近親婚近親相姦とか常識以前のハナシだ。単なる血脈、利権マネジメントなる凡俗即物要件ですら、だからこそとも言えるがそれはスルーされるのだ、まして当家が直面していたのは、法力という特殊スキルの減退あるいは消失、唯の人になってしまってはそこらをスマホに支配され漂っている贄と実質同等、奉公など及びもつかないあの日父は。秦野が、秦氏の傍流であることは調べるまでもなく、そも、この国とは、我が血族は、使命とは、大和とは、そしてこの私は。


 真っ先に駆け付けた大恋愛で結ばれた母は現場を一目見るなり娘を愛剣でなますに刻み良人の肉片を搔き集め降せる全神魔相手にしかしごめんなさいされると天晴な十文字立ち腹喉突きセルフ介錯で後を追い、深香は無論即死で結局、呼ばれて飛び出て放置プレイなモノノ怪たちが到着したキクに救命引き渡し事情聴取にと大活躍。

 さて潰れてしまったので据え置き直された秦野宗家は復職も深香の身元引受何れも断固拒絶、一時は代々の論功に応えてキクでの養育も俎上になるも法の壁もあり無念撤回、順当に施設送りかという直前に、宗家の風聞を耳に遠縁の方から来ましたという初老の男性が登場、正規の養女縁組として引き取られていった。

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