第19話
九鬼公嗣。
24歳、独身。
そう、クリスマスの大台を目前に、彼女はけっこう追い詰められていた。
九鬼の血は継がねばならぬ。
で、あるのに……ようやくさずかった一粒種、姫に、なにゆえ女子に男性名など付けるかー!!。
トランスじゃないネカマじゃないもちろん妹など求めていない!!。
幼少時にはまんま、やーい男女、と、かっこうの餌食にされた。
それらはいい過ぎた事。
しかし。名は体を表すというか。
いわゆる、男装の麗人スタイル、が、彼女自身ベストフィット、スカートよりパンツ、ヘアスタイルはショート以外考えられない、他、女性らしさ、可愛さ、可憐、異性への保護、庇護欲アピール、そうした諸々、自由恋愛の末ゴールインするに必須必要戦闘能力たるずばり女子力が自分には足りない、決定的に、自覚はあるが、絶望的なことにその鍛錬への意欲も、どうしても奮起出来ない、いや、ビジュアルはまんまヅカながら中身はノンケ、別に男言葉を嗜むほど傾ぶいてはいないのではあるが、だからなになんの慰めにもアドバンテージにも。
逆にというか、花嫁修業はもう何処に出ても恥ずかしくないくらい完璧だった。調理を筆頭にハウスキーピング家事百科、さすがに育児は未知数だが、花嫁修士課程修了学位保持者、くらいの盤石たる態勢が確立されていた。
どうしました、室長。
世界が滅亡する直前でも退屈そうに決済事務を進めていそうな、ふだんの公嗣らしからぬ様子に、次席で幼馴染で許嫁で2歳上の、大河内資正が声を掛けた。
資正は、いい男だ。
決してイケメン、ではないが魅力的な、個性派俳優カテ整った目鼻立ちで、トールガールの公嗣よりなお頭半分高く柔術で鍛えられた体躯、何より部下としても年下女性上長ナンバーツーを実にさり気無くこなし、しかも公嗣に対し、君が納得するまで付き合うよとの包容力。幼馴染でなかったら! 許嫁で無かったら! でもでも、揺り籠から墓場まで九鬼の家名で仕切られた人生でのごく僅かな選択肢、それくらい自分の手で掴みたい、完璧な友人、完璧な部下、彼には全く非も落ち度も不満もないつまらない自分だけ拘りなのだろう、だけど! ごめん! 私のわがまま、もう少しだけつきあって。
仮に必死に誰かを射止めたとて、その彼こそ単に公嗣の女子力検定合格通知、最初期から確定フラレ前提の当て馬、いい面の皮なのだが。
まあ当人からして身勝手我侭自覚なだけは、世上に溢れる天然ラブキラー、魔性の悪女より数段マシではあるか、決して悪人ではない、自己評価と憐憫、狭間に置く自身の私情と公務のままならなさ、その葛藤に日々身もだえするくらいには。
そして公嗣は資正の声にも気付かず眼前の、三面モニターの一角を無言で睨み据えている。
その息遣いが、荒い。
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