第13話


 ブッブー、不正解でーす、最初からやり直して下さい。


 深香はしれっと現れた。


 初めは、神々しい、という表現を実直にコーディネートしたかの、上から下まで純白の装い。次は夜闇より昏く禍々しい漆黒の夢魔。そして今は。

 アニメキャラプリントのタンクトップに都市迷彩短パン、そして黒縁。


 ふふふ腐女子ちゃうわ!! 。

 

 いや、言ってない、何も。

 

 その眼!その視線が言ってる!! てかどっちかってとキマシだし!! 。

 

 そして微妙に古い。

 

 メーター入れた脇で光速エントリーは既に了。

 総走行距離82kの県内小旅行のはじまりはじまり。

 薄曇り、熱くも無く寒くもない真夏には出来過ぎたドライブ日和だ。

 

 寺社観光巡りとか例えば古都、京都などではむしろ定番であろうが、この埼玉で大枚はたいて氷川分社巡りなど、控えめに表現して金持ちの道楽、裏金棄て紀行、狂気の沙汰も金次第。

 

 京アニ、好きなんだ。

 

 視線を逸らしたまま太郎が指摘すると深香はきょとんとした、初めてかもしれない無防備な、それは愛くるしい美麗嬢貌を拝謁奉り候、空気にチラ見して眼福うひょ。


 タクドラはヒマだ、ヒマなのだ切実、自然知識量は微増するし趣味は拡散する。小説マンガ映画音楽パズルゲーム車内空間で消費可能なコンテンツは須らくその対象となる。太郎のマイフェイバリットは実写なら古典12人の野郎、アニメはこれも古典未だオネアミスだが

 

 す、好きっていうか、その。

 

 言い淀み、消え入る、父とはじめて一緒にみたのが。

 

 いきなり頬を張られた、ばか! 。

 車内では静穏にお過ごし願います、お客様。

 

 深香は車窓に視線を据え、太郎はその視線を前方側方後方、各ミラー、死角肉眼目視を適宜移動する事で安全運転此れ本分。


 逃げるかと思った、ぽつり云う。

 

 無線配車で客から逃げ出してどうするよと太郎は冷静に返す。

 

 大人なんだ。

 ああ、50前だ。

 

 今度はフリーズした。

 まじまじと隣席を眺める、じろじろ顔を覗き込む。

 

 うぞ。

 

 昔はとっちゃんボーヤでね、漸く実齢が合致したかなと太郎は苦笑。

 

 アラサーかと思った、とその声が少し上ずるが太郎は冷ややかに嗜める、貫目が減る、若年は男の恥だと。


 ……そういうもんなの、


 逆もまた真なり、

 おれはどっちでもいいが、話材にはなる、便利ではあるな。

 

 で、直截にぶつけてみた結果が、わざわざ登録してあるらしいスマホから鳴らした最大公約数的誤答表現電子音まで交えた、意外、と言っては不敬か、能天気で陽性なリアクション。

 


 大宮氷川神社は天皇が直訪する公的霊場だ。

 

 其処に、私企業を運用する事で霊的な攻撃を企てている。

 

 つまり君は、君たちは、この国で確執する権力構造の一角、その策動か、と、具体的には裏天皇の、或いはその関係なのか、と。



 おー凄いすごい! 。


 

 深香はタクドラに向き直り目を丸くしてみせ、ぱちぱちぱち、しっかりお勉強して来たのね、いい子いいこ。

 

 でもざんねん! 大間違いです! 主客転倒、いや主従逆転、かな。賞賛すれども評価には値せず。


 霊的テロリズム。

 権力闘争の手段、ではない、と。


 

 なるほど、では。


 

 タクドラは左折ウインカーを出しながら呟く、それは、その目的達成はしかし、可能なのか、と。

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