第8話
そして市ヶ谷に戻る。
事情は理解した、何がなにやら、の実情ではあるが。
1874年、明治7年12月、市ヶ谷台に陸軍士官学校が開校される。
そして後昭和16年12月、陸軍省、大本営陸軍部、教育総監部、陸軍航空総監部が三宅坂より市ヶ谷台に移転される。これが、現在の市ヶ谷、防衛省市ヶ谷地区の原型となった。
防衛省市ヶ谷地区、又は、防衛省市ヶ谷庁舎は、東京都新宿区市谷本村町に所在する防衛省施設である。陸自では市ヶ谷駐屯地、海自では市ヶ谷地区、空自では市ヶ谷基地と例によって文化の違いを示し、表記はまちまちである。防衛省本省に加え陸海空の3幕僚監部、そして統幕も同居する現在我が国防衛の中枢である。敷地内にはペトリオットが整備されており、空自第1高射群が常駐し、対応させている。
練馬を経由して大宮から届けられた机上のバインダー一冊を前に、情報本部地理部長は頭をかいた。
これもお役所仕事、大事なだいじな利権の固守なのだ、いや当事者にすれば死活問題だ常に、でもさぁ。
こんなくそ仕事を押し付けられる現場はホントはた迷惑の一言である。
合衆国三軍が出資開発しNASAに運営を委託している偵察衛星の一つが、ONI所管であるところの情報、つまり地磁場の異常を検知したのが本案件の発端となる。
平時、軍隊にとって最大の敵とは何か。
仮想敵国?HAHAHAナイスジョーク!それは単なる販促資料であるに過ぎない。
予算であり、自部署の枠を減らす総ての存在、である。議会は無論、自軍以外の2軍は当然、自軍内の他部署こそ最悪にして真の排撃対象たる敵に他ならない。
現在、米海軍の存在は危機に瀕している。
理由は簡単、討つべき敵が存在しないからだ。
自由主義陣営、世界の敵ソ連相手に冷戦華やかななりし往時にあってすら、その力は過剰だった。現在最大の仮想敵国である中共は大陸近辺をぴちゃぴちゃ蠢く沿岸海軍でしかなく、大洋を脅かす存在足り得ない、極めて深刻な事に、まあ大陸国家だし仕方ないよね。
機動部隊を一つ減らす?それをすてるなんてとんでもない!。空母はいい、有権者に人気でアメリカアズナンバーワンの有力な広告塔で、映画だ何だと露出機会も多い。実際災害救助活動へ投入できるくらいには有用でもある。ハト派の上院議員が自身の政策立案スタッフの成果を手元に置きある日突然告発するのだ、この海軍独自の情報収集活動予算は削減可能なのではないか、と。潜水艦磁気探査、ええそれは存じております、しかし近年、オプティカルポンピング方式からスキッド、超伝導量子干渉計方式へ移行しつつある、これは随分と感度が上昇し、つまり磁気補正も海軍独自では無く国際標準規格準拠で十分なのではないですかな、そもそもにして海軍予算そのものが云々。
そのとき海軍長官が答弁に読む資料がこれだ、これを基に平時の備えこそ有事に対処する国防の意義を再認させるのだ、まあそういう事だ。
同盟国の軍事予算確保を支援する事務作業。
それはいい、それは大事な業務だ。
問題はこの実情だ。
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