第7話


 大宮。


 大いなる宮居。

 

 すなわち、武蔵一宮氷川神社。

 

 BC472、約二千四百年前、孝昭天皇、三年 四月未、創立さる。

 

 倭建命が東夷鎮定を祈願し。

 出雲より兄多毛比命、武蔵国造が移駐し奉崇。

 

 主祭神、須佐之男命。

 稲田姫命。

 大己貴命。


 スサノオ。

 建速須佐之男命、速須佐之男命、須佐之男命、素戔男尊、素戔嗚尊等、須佐乃袁尊、神須佐能袁命、須佐能乎命。


 クシナダヒメ

 櫛名田比売、奇稲田姫、稲田媛、眞髪觸奇稲田媛、久志伊奈太美等与麻奴良比売命


 オオナムチ

 大穴牟遅神、国作大己貴命、八千矛神、葦原醜男、大物主神、宇都志国玉神、大国魂神、伊和大神、所造天下大神、地津主大己貴神、国作大己貴神、幽世大神、幽冥主宰大神、杵築大神。

 そして、大国主神、大国主大神。


 武蔵の名の起源は諸説唱えられているものの、いずれの説も定説となるには至っていない。

 何故か。

 焼き尽くされ、滅尽されたのだ、大和による征服によって、故にその起源は謎のままだ。

 

 我々は、何一つ知らず、知らされず、知ることを望まず、日々安閑とのみ願い、朝日を浴び、夕に瞑る。


 武蔵の国、秩父の嵩は、其の勢ひ勇者の怒り立てるが如し、日本武尊、此の山に東夷征伐の祈願を込め賜ひ、其の後東夷尽く平治せしなば、其の武器を秩父岩倉山に納め賜いてより、此の邦をむさしと称すもの也。


 ヤマト東部戦線。東部方面軍集団指揮官ヤマトタケルの手には、先に西部戦線を制したスサノオによるヤマタノオロチ攻略の戦果としてヤマト王権が遂に入手したねんがんの、製鉄技術、天叢雲剣があった。新兵器、鉄器の前線配備を待った満を持しての、盤石の侵攻作戦、パンターの配備を待った城塞は頓挫したが、ヤマト王朝が発起した東夷の場合はバルバロッサもかくやの破竹の進撃であったのは間違いない。



 現在、大宮、と言えば、

 新聞紙上にて、交通至便と激賞を受けた如くに、

 新幹線であり、旧大宮操車場を拓いて置かれたスーパーアリーナであり、

 アルディージャであり、ソニックシティ、パスポートセンター。

 

 ああ、ゆく年くる年年始の顔、氷川神社も大宮でしたね。


 現在、氷川本殿の表参道は、新都心駅東口を少し過ぎた辺り、旧中山道から右に分岐する形、鳥居を潜り道は本殿に向かう。これが、江戸初期の中山道、旧中は大宮宿の南で参道に乗り入れていたようで、つまり旧中だと思って走っていると突然、現れた鳥居を潜り神社、氷川本殿の参道に乗り入れ、え、え、と驚いている間にまた旧中に戻るという、ちょっと信じられない構造だがもちろん当時の移動は原則徒歩であるので、畏れ多い以上の障害は無かったかもしれないがやはり畏れ多いとの民意もあり、この地を治めていた関東郡司伊奈忠治が、寛永5年、西側に街道を移転させる区画整理を断行、参道沿いの宿や家およそ40軒を新設街道沿いに転居させ、これが現在に至る大宮の町となりましたと。

 

 現在は完全に主客転倒したが、

 大宮とは大いなる宮、

 即ち氷川神社そのものであり、

 氷川なくば大宮もくそない、無かったのである。

 大宮区民、元市民はもっと本殿を敬うべき。



 高天原爾神留坐須 皇賀親神漏岐神漏美命以知氐

 八百萬神等乎神集閉爾集賜比 神議里爾議賜比氐

 我賀皇御孫命波 豐葦原乃水穗國乎安國登平介久

 知食世登事依奉里伎


 此久依奉里志國中爾荒振留神等乎婆 神問波志爾

 問賜比 神掃比爾掃賜比氐 語問比志磐根樹根立

 草乃片葉乎母語止米氐 天乃磐座放知天乃八重雲乎

 伊頭乃千別伎爾千別伎氐天降志依奉里伎


 此久依奉里志四方乃國中登 大倭日高見國乎安國登

 定奉里氐 下都磐根爾宮柱太敷立氐


 高天原爾千木高知里氐 皇御孫命乃瑞乃御殿仕奉里氐

 天乃御蔭日乃御蔭登隱坐志氐 安國登平介久知食左牟


 國中爾成出伝牟天乃益人等賀 過犯志介牟種種乃罪事波

 天都罪國都罪許許太久乃罪出伝牟


 此久出伝婆天都宮事以知氐 天都金木乎本打切里

 末打斷知氐 千座乃置座爾置足波志氐 天都菅麻乎

 本刈斷末刈切里氐 八針爾取辟伎氐


 天都祝詞乃太祝詞事乎宣礼


 深香の可憐な口許から朗々野太く流れ溢れ出る音声はどこまでも神々しくしかし。目的地に着いた以上客を降ろせばそれで終わりそれで済む筈、現実的であるべき一縷の希いは陣風が吹き消す蝋燭より儚く。脳髄は痺れ股間は灼熱し視界は歪み、スマホ以上に重い物はタブレットくらいしか持つまいという生活感絶無の手が有り得ない膂力で男の魔羅を絞り上げその意図する儘にエントランスを潜り生涯一度も経験の無いアクセルターンでぴたりと駐車場に留め。

 

 気付けば館内の一室に居る、二人で。

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