交通神話 -武蔵龍神伝説-

大橋博倖

第1話

 さて。

 

 あーあーてすてす。

 

 小説か。

 

 小説だよなあやっぱ。

 

 言語というのはまんどうなものだ。

 あ、面倒か。

 

 因みに言語というのはデジタルなんだ。

 数字こそがアナログ、情報を連続的な量として扱うこと、そういう情報処理方式形式形態形質。思念はアナログだが言語というのは、その言語が規定する型式、文化文明時制に時世に自省に自生、ああぜんぜん自制してないなサーセン。つまり話者の事故、自己規定想念の文字言語へのコンバートコンパイルと読者、受けての蓋然性、知識量、ターゲティング、つまり物凄く制約が大きい、1、0、100、億、∞、数値はまずまず概ねダイレクトに伝播するが、言語というのはまあね、

 

 何が言いたいかというと、

 

 まあ、よっぱらいのたわごとだ、

 

 あ、なんだよ深香。

 

 こんあなん素面でやてられるか。

 

 でもまあやる。

 

  まあしゃあない、創めよう。

 では諸君、準備はいいか。

 

 ここからは少し真面目に取り組もう。

 

 題して、現代は神の時代である、とする。

 

 改めよう、現代こそが、神の時代である、と、

 人類と対置される存在としての、だ。

 

 つまり過去、神は余りにも普遍的であり過ぎた。

 神は法であり政治であり科学であり倫理であり娯楽ですらあり万物不可分世界そのものであった。云うなれば認識の、レイヤーが余りに粗雑であり未熟であった。メガバイトどころかせいぜいが8ビット、Z80、アナログはまだムリでデジタル8色、これが世界の限界であった。

 

 現代はデフォでギガから、必要であればテラでもペタでも積み増し可能だ。逆に振ればプランクという底まで見通せる、解像度が段違いなのだ。量子の振る舞いを観察する同じ視線を世界の創始たる宇宙背景放射にまで転じる事が出来る。

 

 そして、このキャパシティが実現して初めて、我々人類は神という存在を相対視する能力を獲得したのである。未だ原子一つ創出出来ない我々人類と、世界の調律者、摂理、法則、スーパーマシン、在りて在る者、神、そのパフォマーンスの隔絶を。

 

 また、その御業、仕事振りを目の当たりにさせられるのが現代であるのだ。

 

 大きくは二つ、まずは電子計算機とそれがもたらし実現したこの世界の様相である。

 

 教科書であればバベッジ、エイダ、チューリングらの名を外すべきではないだろうがここは即物的にENIACを挙げる。やがて電子計算機を駆動する信号は回線を通じて屋外に拡がり電話や無線とは異なる、情報分散連結型のネットワークを構築する。これは当時より実用化された地球を覆い尽くす戦力投射、ICBM、核弾頭搭載型大陸間弾道弾での戦争勃発、これへの対抗手段としてインターネットの原型が形成され民生にスピンオフ、コンピュータの始祖は第二次世界大戦末期に大砲を撃つツールとして発生し、ネットは核冷戦時代の副産物。

 

 インターネットの何が神か。

 

 縁起を容易に機能させる意味に於いて、である。

 

 此の世に偶然は無い、総ては必然である。

 

 

 これを、縁起、と呼ぶ。

 

 

 本来ラプラスを引くまでも無いのだ、もし世界が偶然始まったのであればそれは必然でありそこには構造がシステムが法が仕組みが存在し機能し要求されていたのであり、それは一見不可視であるが確実に実在し、無い、と強弁するは無恥無知無能無識無明であるに過ぎない。

 

 

 例えば旧暗黒大陸で食い詰め新大陸に渡り神の慈悲に感謝しながら原住民の集落を襲撃し飢えと性欲を満たした魂とそれに遭遇した魂が今生ではそれぞれ極東列島と実質的物理的極遠南米某所に転生した、としよう。

 

 ネットはこの魂を極めてかんたんに連接する、ネトゲでも呟きでも或いは炎上でもつべ投稿でも。縁起は解消され、或いは蓄積もされ得る。

 

 

 カルマ、という呼称の方が現代では寧ろ耳慣れだろうか。

 

 

 

 今一つはタクシーという移動、運送、サービス業の誕生である。

 

 

 何とはなれタクシーには間違い無く神が宿る。

 

 

 天文学的数値と呼び、確率と謂う。

 

 

 プールにランダムに屯する営業車がランダムに来訪する利用者と再会する確率はどのくらいか。3回めは?、顔馴染みに??。

 

 共時性?シンクロニシティw?タクシー業務では日常である。

 

 

 神の存在証明を求め数学は神学より出でてその不在を明かすに至り、現代にて再臨を説く、す・う・が・く・て・き・に・あ・り・え・な・い。

 

 

 それは奇蹟。

 

 

 神の御業。

 

 

 人類の移動手段は二足歩行なる、頭部という最重要機関を質量重心にしてエンジンとする、倒立転倒予防身体反射の連鎖という名状し難き不幸不自然不自由不具合不合理危険まだあるか、何で車輪か無限軌道かせめて四肢のままガマンしとかなかったのばっかじゃないのな方法手段であり、冗長性も皆無で二本一対の一つを欠損すればたちまち機能不全、捨てたハズの四肢にすがり這いずる。

 

 

 タクシーはドアTOドアで人間を搬送する。

 

 

 少し前まで旅とはそのまま死出の旅路そのままの覚悟を強いられた。人間が二足歩行で一日にだれだけの距離を稼げるというのか、次いで鉄道機関、乗り合いバス等、ポイントTOポイント、社会にとり付加価値を持つ拠点間を共同搬送するサービスは整備された、が、個人がこれを使用出来る環境は存在しない、しなかった。

 

 

 タクシーがこれを実現した。

 

 

 知っている人は知っているだろう。

 

 

 ゼロ戦、零式艦上戦闘機。

 太平洋戦争開戦当初の、我が国が誇る、秘密兵器。

 

 

 その原型機、試作機は、何と、牛車で搬送された。

 

 

 タイプミスでも冗談でも無い、平安貴族のマイカーであったあの牛車、牛に牽引させた荷車である。名古屋の三菱重工業大江工場から各務原飛行場まで牛車で運ばれた。ウソだと思うなら今直ぐグーグル先生に弟子入りだ! 。 名古屋の市街地は兎も角、郊外から各務原までをトラックで運ぶ事は、その振動に機体が耐えられないことから無理だったのだ。 鉄道に於いてもトンネル及び蒸気機関車発する粉塵が障害となる。後に工場の対岸に飛行場が造られ大型の専用船で運ばれるようになったが、それまでは牛車で運ばれた。昭和の、開戦前夜の実話だ、このゼロ戦に、黒船におどかされ返す刀ですかさずリベンジ、建造なった世界最大巨艦大和型、一点豪華に自ら幻惑されたかしらんがこの実情で北米相手に宣戦布告とか完全に基地外だよな、戦後だってあちこち未舗装道だったのは周知だろ。

 

 

 モータリゼーションが社会環境を革新させた。その契機はやはり人類全体を巻き込むような大戦争であった。

 

 

 そして人は赴き、その縁起を図る。

 

 


 古事記の古より日本では樹木に神が宿ると考えられ、崇拝の対象となり御神体等、柱、と数える、俗説はそう語る。

 

 そうではない、私は観た。

 オーラ視などただの日常業務なのだがそれ、は違った、ちがったのだ。

 白銀に眩いそれは、荘厳だの神々しいだのの修辞すら余りに下司な、まさにおそれおおい、地を天空を貫く一本の、

 

 御柱、

 

 そう、あれこそは神の姿、

 

 あれを、太古の我々は観、

 

 者では無く、かぞえたのだ、

 

 はしら、として。

 

 

 つまり、

 

 

 其れは既にして屹立する。

 驟雨に昂然と身を晒すは威風凛然一柱の如し。

 水撥ねクレームを避けそろそろ歩む、黒でも紺でもない希少なシルバーである宮中カラー、昨今絶滅種であるセドリック、セダン型タクシーは故に粛々停車せしめん。


 雨降り千金。

 

 見ろ人が羽虫の様だ。


 普段、見向きもしない客が、降雨という一事で群がる。

 

 だから神子で手を挙げた其れ、

 まあ西口だよな、ゴミ拾い乙。

 

 上から下まで純白の装いは、洋装ながら巫女を想起させる。

 そしてコントラストを為すかの、腰まである艶やかな黒ロン。


 足はさみ事故回避に後席ドア乗降口に目を置いたタクドラは息を呑む。

 彼方の雲海が割れ、後背より差し降り来る黄昏色の西陽に客の姿が染まり、身に装う純白の装束は光鱗を弾き眩く輝き流れる漆黒の頭髪は銀爛光貴を為し、一身は流麗華美な聖標と為り替わり、スカートをたくしあげ、あたかも華族のような立ち振る舞い優美さで其れは後席に身を落ち着ける。

 

 すみません、ちかくてもうしわけありませんが、えきまで。

 

 とは、彼女は告げなかった。

 

 住所でいいですか。

 

 涼やかな声。

 

 あっ、はい。

 西口じゃない?、まさか、東口じゃないよな。

 

 みどりく、みやもと……。

  

 すらすらと流れでた地番を慌てて入力する。

 

 時刻はちょうど18:00。

 ナビの表示が夜間モードに切り替わった。

 埼玉県さいたま市大宮区神子町、旧大宮市、から緑区、旧浦和市、まで、タクシーで、JRも各社バスもとうぜん運航中、の筈たぶん。

 しかし異常ではない、当該受益者には珍しくも幸運ではあるにせよ。

 世の需要、事情は其々。

 

 逢魔が時いや大禍時、女神降臨、タクドラは直前のやさぐれを拭い隠し念の為、宜しいですか、ここからですと。

 

 少し、かかりますよ、

 これで、足りるかしら、皆まで言わせず差し出されるぴんぴんの万札。

 

 あっ、はい、じゅうぶんです。

 

 急ぎじゃないので、安全運転でお願いします。

 

 ランドマークとして表示されているのは、赤い鳥居のシンボル。


 後方視界確認の際否応なしバックミラーに割り込んで来る、少し険はあるにせよ白皙紅顔、贔屓目にも一山いくらの商業美人より一つ抜けた、標準以上美形、美少女。発車以後、軽く目を閉じ一言も発せず、サスの波に身を委ね時を過ごす、眠れる後席の美女。


 やまだたろう。

 

 寝言の様に呼ばれ、背筋が伸びた。

 いや、乗車票に書いてあるけど、それがどうかしたのか。

 

 そして、続く言葉は無い。

 

 あ、この辺で。

 

 不意に身を起こし告げる。

 ブレーキワークを駆使して水も漏らさぬ停車を遂行し、料金を読み上げようとすると、

 

 足りてますよね。

 

 札を指して、長距離運転有難うございました。

 

 え、あ、まじ、お、恐れ入ります!!。

 

 女神、いや神か、神子で拾った客の神対応!!。

 

 そろそろ走りさるタクシーに、ミラーの彼女は丁寧に礼、慌ててこちらも頭を下げる。

 

 雨は上がっていた。

 

 そして、始まった。

 

 

 これは、私の手記だが、

 そうではない。

 これを理解頂くのは遺憾ながら読者各位には読了、

 最後の一文字まで読み切る、今はそれしか方策は無い、

 念の為巻末からネタバレ期待でチラ見すると混乱を冗長する。

 

 ではまた後程。

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