お兄ちゃんは『妹が!』心配です
斐古
プロローグ
第1話 〜お兄ちゃんは全力で考えてるようです〜
気がつけば、俺はポツンと森の中に立っていた。
澄み渡るような青空の元。俺の身長の何倍もの背丈の木々が、青々と生い茂っている。陰湿な雰囲気は全くなく、開けた場所にいるためか、視界は実に良好である。
素足の裏に感じる地面……土と草の固く柔らかな感触が。そして幼い頃、年に数回だけ遊びに行っていた祖母の家の裏山で、日が暮れるまで泥だらけになってはしゃぎ回った思い出が蘇ってくるような。そんな大自然特有の懐かしさをまとった臭いが、『
俺の膝丈程まで生えた草が、少し離れた先に生い茂った木々が。どこからともなく吹いてきた風によって擦れ、柔らかな音を立てて揺れる。
俺は雲一つない空に向けて、腕を伸ばす。指の隙間から漏れる日の光の眩しさに、俺は思わず顔をしかめて片目を閉じる。
「いい天気だ……」
半ば現実逃避気味に、そう俺は呟いた。
――――――青く澄み渡る空……――――――
――――――見慣れない森……――――――
――――――さわさわと通り過ぎる、心地よい風……――――――
――――――遠くでは、何の動物か分からない生き物の鳴き声がする……――――――
簡潔に今の状況を説明しよう。俺……いや、
ここに居るのは、俺を含めて三人。
目を輝かしながら、俺の周りを楽しそうにグルグルと回り続ける少女が一人。
閉じることを忘れたように、大きく目と口を開いて呆然と立ち尽くしている少年がさらに一人。
そしてその少年の、少し離れた隣で今まさに。現在進行形で現実逃避しかけているのを、何とか踏みとどまっている俺が一人。
俺は今一度状況を整理しようと、額に手を当てて考える。「落ち着け、まだ慌てる時じゃない……。冷静になるんだ」と、そう自分に言い聞かせる。
ため息混じりに深呼吸をして、先程までの事を思い出す。
何の変哲もない休日だった。休日と言っても社会人の俺は固定休じゃなく、シフト制の不定休故に、土日祝日などの世間一般的な休日ではない。
そんないつも通りの仕事のない休みの日に、俺は自宅でいつも通ーりに、この俺の周りを走り回る少女と共に、朝からゲームをしていた。
まぁ朝と言っても、毎回休みの日の前日には徹夜でゲームをするため、俺が起きた時間が朝だ。昼だろうと関係ない。俺が起きたその時間が、休みの日の俺にとっての朝だ。これだけは誰にも文句は言わせねぇ。
そして夕方になり、この隣で立ち尽くす少年が学校と部活帰りに、これまたいつも通り俺たちの家へとやって来た。このいつまでも俺の周りをグルグルと回り続ける、少女の家庭教師として勉強を教えるために。
ここまでは普段通りの日常。俺が仕事だろうが、休みの日だろうが。それが俺たち三人にとっての日常、つまり
それが突然の訪問者と、
(何故だ? 何がどうなって、俺たちは
先程から、頭の中で何度も考える。だが結局出てくるのは、この非現実的な目の前の光景への、盛大なため息だけだった。
この短時間で、目の前の現状に対して様々な思考と憶測が、俺の頭の中で何周……いや、何十周したことだろうか?
この中で年長者の俺は、今にも叫びたい気持ちを、奥歯をかみ締め拳を握ってグッと堪える。
(だから何故だ!? どうしてこうなった……!?)
声に出せばエコーがつきそうなほど、俺は心の中でそう大きく叫んだ。
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