「薬屋商売」

succeed1224

第一章「薬売り」

第1話

「薬剤師免許がなきゃ、お前なんて使えねぇただのガキだからな。」

薬剤師免許を持ってる俺に、その「タラレバ」意味あるか?

俺より20近く歳が上のおっさんが、そんな事を言う。


薬剤師手当の分、俺のほうが高い給料をもらっているのが不満らしい。

「はぁ。」

俺は気のない返事をする。

「お前、俺が会社のために月にいくら稼いでるか知ってる?」

俺が勤めているのは、調剤併設型のドラッグストアの調剤室、詰めてるのは俺と、俺の上司で調剤室の責任者である管理薬剤師に、医療事務が1名の、それほど忙しくない店舗だ。


「さぁ。」

さしたる興味もなかったので、やはり俺は気のない返事をする。

「1千万だぜ?それなのになんでお前の方が給料高いんだよ。」

コイツはドラッグストアの店長、名前は平野。

1千万とは、先月のドラッグストアの利益額だ。

「お前らせいぜい3百万だろ?なんなんだよホントに。」


まず、ドラッグストア側には常に社員3名、パート・アルバイト7名の総勢10名が在籍し、常に5人以上が店舗に在中している。

当然だが、コイツ一人で稼いでいるわけではない。

平野はそうは思っていないようだが。

更に、店の面積の8割以上はドラッグストアの為の売り場で、調剤室は2割以下だ、1人あたりの稼ぎは同じでも、家賃との比率を加味すれば、俺たち調剤部門の方が、利益を上げている。

「こないだのボーナスも、お前にはそんな価値ないからな。」

一般に賞与というものは、普通であれば、会社全体の業績に応じて支払われるが、ウチの会社の場合、現場にいる正社員は概ね勤続年数に比例した金額をもらえる。

ただ長く勤めているというだけで、ボーナスの額は俺のほうが低いわけだが、先に上げた内容を踏まえて、コイツは何を根拠に「俺にボーナス分の価値はない」と言っているのだろう。


ついでに言えば、薬剤師にしか販売できない「第一類医薬品」と「要指導医薬品」はドラッグストアの売上として計上されている。あんた、この店のロキ○ニンの売上いくらか知ってんのか?それ俺らいないと売れないんだぞ。


「何その目、お前なめてんの?薬剤師様はそんなに偉いの?」

自分が偉いとは思わないが「薬を売る」という仕事を生業にしていて「薬剤師」に喧嘩を売るやつが賢いとは思わない。

「お前、自分が世界で一番賢いと思ってるだろ。」

少なくともアンタよりは賢いよ。

「は?」

口に出していたらしい。

マズい、と思ったときには目先に火花が散っていた。

俺は平野に殴られていた。

口の中が切れる。

「ヒョロガキがイキがるんじゃねぇよ。」

平野は言い捨てて、休憩室を出ていった。

「この会社やべぇ。」

入社3年目の俺は、順当に転職を考えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る