お兄ちゃんと呼んでくれ!

京介

第1話

「なあ清子……話がある。」


「何?」


俺は冷や汗をかきながら偉そうにソファに座る妹の清子に話しかける。


「頼む!お兄ちゃんって呼んーー」


「きもい、死ね。」


「ダァァァァ!なんでなんだよぉぉぉ!」


「そもそも、あんたを兄貴だなんて思ったことないし。」


「それはお前の匙加減じゃないか!お前がこれくらいの時は『お兄ちゃん!私お兄ちゃんと結婚する!』ってーー」


「うるさぁぁぁい!」


清子はそばにあったクッションで俺をぶってきた。


「殴ったな!親父にもぶたれたことないのに!」


「いやこないだ、怒られてなぐられてたじゃん。」


そういう話じゃないんだよな。


「今のはガンダムの名台詞でだな。」


「はいはい、出たよキモオタおっつー」


「くっそーなんとしてでもお前が家を出るまでにお兄ちゃんって呼ばせてやる!」


「はいはい、部屋であんたの推しが待ってるわよー」


清子はスマホをいじりながら俺を遇らう。



〜20年後〜



「それでは、続きまして妹の清子さんからのお言葉です。」


司会がそういうと清子は壇上に立ち深々とこちらに頭を下げた後少し微笑んだ。


「今日はこんなクソ兄貴の結婚式にお越しいただきありがとうございます。」

「って!あいつ……。」


いつものように俺をいじる。しかしそこには一つも「嫌い」といったマイナスな感情はなかった。


「うちの兄貴はいつも部屋でパソコンいじってて、私のことなんて気に留めなくて、私もそれに腹が立って無視してやろうって思ったら、いきなり目の前で『お兄ちゃんって読んで!』って土下座しながら懇願してきて。ほんとに気持ち悪い兄貴でした」


観衆はそれを聞きくすくすと笑う。


「でも、うちの自慢の兄貴です。勉強はできるしちょっとはモテる。スポーツとかはからっきしだけど、クラスでは代表を務めるぐらいみんなから信頼されている人です。」


清子は淡々と俺のことを話す。


「そして、そんな兄貴にもこんな可愛い奥さんができました。私は嬉しいです。でも、少し寂しい。」


清子の頬に一筋の川ができる。それがライトに照らされとても綺麗だ。


「もう、兄貴と遊べないんだなって。もう、あんないじり合い……出来ないんだなって。」


涙ながらにそう言う清子に俺は少し感動した。


「でも、最後ぐらい笑ってあげようって。そう思いました。」


次の瞬間、清子は俺の方へ向き袖で涙を拭く。そして、深い深呼吸をし俺にこう言った。




「お兄ちゃん!大好きだよ!」




清子はそう締めくくった。

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