「生贄に優しくしすぎです!」

五月は鬱

第1話

 壱という名前は、たくさんいる子供の一番目という意味でつけられた。


壱の父親は村の村長の息子であったが、女癖の悪い男だった。外に身篭らせた子供はたくさんおり、その中で一番最初に発覚したから、壱という名前だった。


村長の息子は恥として村から追い出され、他の愛人の子は愛人ごと村から追い出されたが、壱の母親と壱だけは村に残り続けてしまった。


いびられつづけ、母親は自殺をしてしまい、いびられるのは壱だけになった。


だからこそ、村で代々やる祭りの金がないという厄介ごとと壱を結びつけるのは容易であった。


壱は生贄にやられた。綺麗な着物を生まれて初めて着せられ、女性のような化粧を施され、水神が住むという滝に落としたのだった。


当然、壱は死んだものとされ、厄介ごとが片付いたと村は平和になったのであった。



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 「白明さーん!!!今日の山菜とってきましたよ〜。

あと、山神様にお願いをして、猪を一体だけとらせていただきました!」


細身だが、うっすらと筋肉がある黒髪の男性が滝の奥の洞窟にやってきた。

健康そうに籠たくさんの山菜を背負い、両手に猪を抱えている青年が、あの生贄にされている壱だ。


壱は死んでなどいなかった。死人が山菜も猪もとる必要はないし、とることはできない。


「おかえりなさい。

悪かったな。ちょっと鱗の調子が悪くて」


と、洞窟の奥の奥からやってきた青年が、村の水神である白明びゃくめいだ。


彼は昔からこの滝に住む龍であり、のんびりと暮らしてきた。


彼は美青年であったが、同時に筋肉質な男性であった。

美しい美女ではなく悪かったなと、毎回人間を驚かせていた。


「それにしても、村の奴ら薄情ですよねー。

今年も祭りの時期でしょ?今年もやらないじゃないですか〜」


「まぁ、あの村長だからなぁ……。正直、壱がまだ生きていることが知られないからいいけれど」


猪を一緒に持ちながら、洞窟の奥の奥の方に二人は歩き始めた。

そして、その洞窟を滝が隠し、やがて洞窟の入り口が見えなくなった。



洞窟の奥の、光が差し込む一番綺麗な場所。白明が人間に化けて、そこで手に入れた家具を置いて、二人ですまう住居を作っていた。


猪を少し食べ、山菜を茹でたものと米を食べ終えると、すっかり日がくれていた。


月の光が淡く部屋をてらし、それに反射し光る石が優しく光っている。


「さて、明日も米を少し耕すぞ。だから早めに寝てしまうか」


と、二つ並んだ布団の片方に白明は入った。

いつもなら、壱はもう片方の布団に入るのだが……。


壱はおそるおそると、だけど待ちくたびれたように白明の布団に入ってきた。


「壱?どうした?」


「白明さん……」


壱は白明の首をゆっくり撫でて、耳に吐息をかけた。


「性的な意味で、俺をそろそろ食べてくれません?」

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