6. 身体


 弓花が自分から誘ってくるのは、随分と久しぶりのことだった。


 おずおずと身体を抱き寄せて、僕はキスをした。ゆっくりと舌を交わしながら、ブラトップのひもを下ろした。ズボンを脱がせて、僕たちは裸で抱き合った。


 身体をこすると気持ち良い。毛布の下で、弓花の脚がひしりと僕に絡みつく。


 長いキスをする。

 舌を何度も通わせる。


 彼女が好む部分に触れる。同時に彼女の手が伸びてくる。互いに互いをなぐさめ合って、ひとつの生き物になったみたいに快感を共有し合う。身体がじんわりと熱くなってくる。


 弓花の最初の性体験は15歳の頃だった。

 もっともそれは真っ当な性体験ではなく、当時一緒に暮らしていたオジによる強姦未遂だった。


「前から、危ういなってことはあったんだけど」


 オジは彼女と二人きりの時に襲おうとしたらしい。


「オバに言っても無駄だし。世間の目があるとか何とか」 


 それから弓花は、障害者の自立を支援するNPO団体の力を借りて、福岡で一人暮らしを始めた。ようやく新生活が始まった頃、彼女に性的な関係を迫ってきたのは、その団体の職員だった。弓花がまだ16歳の年だった。


「そのクズ。他の娘にも同じようなことしてたんよ」


 足元見やがって、と弓花は語気強めに言った。結局、彼女の生活が落ち着いたのは、女性を中心に支援する団体に出会ってからだった。


 その活動場所が東京にあると言うので、弓花は落合のアパートで一人暮らしを始めた。


 彼女は自分の身体を指して、自虐的に言う。


「こんないびつな身体のどこが良いんだろ。男って変だね」


 それは僕もだよ、と言うと弓花は「ああ、しまった」と言葉を返す。


「カーくんは私のどこが好きなの?」


「全部だよ。身体も、全部好き」


「何それ。いやらしい」


 弓花はおかしそうに笑う。


 そこに嘘はない。僕は弓花の身体が好きだった。

 いびつだ、と言う弓花の身体は左右でバランスが違う。熱傷によって、左側が成長阻害せいちょうそがいを起こしている。左右非対称の身体。時間に置いてけぼりにされたみたいな左半身。


 出会った頃より肉付きが良くなっているのを、抱きしめながら感じる。前までは腰に触れると、あばらが浮き出て見えた。今は柔らかな膨らみになっている。そこを舌で触れると、弓花は気持ち良さそうに身体をよがらせる。


 肌が汗ばんでいる。

 呼吸が荒くなり、互いを求める動きも激しくなっていく。


 性的なことは彼女にとって、大きなトラウマのひとつだ。本人はわざとらしく何でもないようなフリをしている。それが嘘なのは表情を見て分かる。


 彼女の性体験は全て弓花が僕に話したことで、どこまでが本当か嘘なのかは知らない。少なくとも最初にセックスをした時に、彼女が処女でなかったのは一つの事実だ。


 今日も僕たちは避妊具を使わない。

 子作りを始めてセックスの頻度が増えた。僕たちは誘い合い、日によっては一日に複数回した。


 その月、いつも通りに生理がやってきたので、弓花はかなり残念そうな顔をしていた。

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