幼なじみと子作りを始めた。

スタジオ.T

1. 子ども


 弓花ゆみかはほとんど小学生か中学生くらいで、時が止まってしまったような身体をしている。背は僕の頭2つ分くらい小さい。立って抱きしめると、胸より下、おへそくらいのところくらいに彼女の頭がある。


 出不精でぶしょうで平日も休日も家にいる。

 フローリング床のリビングを、GUで買った灰色のブラトップで歩き回っている。それを外すとわずかに膨らんだおっぱいと、色素の薄いピンク色の乳首が現れる。


 セックスの時になると、弓花は恥ずかしそうに薄いタオルケットで自分の身体を隠す。


 僕が大学を出て一緒に暮らし始めて3年、大概の時はそうしていた。「そんなことをすると余計に子どもっぽく見える」と言ったら、おそらく彼女はとても怒るだろう。だから言わない。


 僕は弓花とのセックスが好きだった。


 弓花と最初に出会ったのは小学生の時。

 中学からは別で、再会した時には大学生になっていた。それまでに僕は3人の女の子と関係を持った。そこに性的な快楽はあったけれど、結局それまでで、弓花が与えてくれる以上のものはなかった。


 敏感な部分に触れると、弓花は分かりやすくピクリと反応する。怪我をした左腕と左脚には白い包帯が巻いてある。そこからかすかに、ワセリンの薬っぽい匂いがする。


 裸の彼女を抱きしめる。


 さするように動く弓花の手のひらは、小さくてくすぐったい。子犬のように鳴いて、力が強くなるのが分かる。


 誘うのはいつも僕の方で、三回に一回の確率で断られる。

 弓花と体調と気分次第。たまにセックスが好きじゃないのかなと思うこともあるけれど、行為を始めると彼女は切実に僕の身体を求める。普段の会話では信じられないくらい甘い言葉を吐き出すこともある。


 弓花のそういうところが、僕は好きだった。


 その日、僕は少し疲れていた。


 仕事でミスが続いていた。工事で使う資材とかを売る仕事。例えば僕の身長の何倍もある投光器とうこうきとか。


 今日は顧客に提出した製品のデータが間違っていた。その前は請求書の金額。大きなクレームにはならなかったけれど、上司からの心象はあまり良くない。学生気分が抜けていないといまだに言われる。


 夜10時過ぎに家に帰ると、弓花はソファに座って映画を見ていた。こんな時間まで彼女が起きているのは珍しい。


 シャワーを浴びて、隣に座って一緒に映画を見た。缶チューハイと近くのセブンイレブンで買ったたこわさをつまみにした。弓花はお酒を飲まない。飲むと決まって具合が悪くなる。


 途中から見た映画の、話のすじはほとんど分からなかった。海外のドラマで、裁判所が舞台の暗い雰囲気の映画だった。それでもハッピーエンドで終わったらしいので、弓花は満足したようだった。


 ベッドに入った。

 新居に越してくる前に、立川たちかわのニトリで寝具一式を買った。シーツの色は弓花が好きな水色だった。


 セックスをするのは金曜日か土曜日が多い。翌日に仕事がないと遅くまで寝ていられる。ずっと金曜日か土曜日だったら良いのに、と小学生みたいなことを思う。


 疲れている時ほど、僕は彼女の身体を求める。そうすると今まで溜まっていた悩みがどうでも良くなる。目の前にある彼女だけが世界で、それ以上望むものもなくなる。


 その瞬間が、僕はたまらなく好きだった。ベッドの中は過去も未来も、関係のない場所だった。


 前戯の長さは、気分によってまちまちだったりする。あまり熱心にやったりすると、弓花が先に満足してしまって、その後が惰性だせいになってしまうこともある。それはすごく残念なことだ。


 あまり強引にやるのも良くない。弓花はそれをすごく嫌がる。彼女は人一倍、痛みには敏感だ。


 気持ち良くなってきて、お互い興奮してきて、無駄な言葉がほとんどなくなってきたくらいの時に、僕は枕元のコンドームを手に取る。


 その晩、弓花はそれを拒んだ。

 

 そして静かな、それでもはっきりとした声で、 


「カーくん、私と子作りしよう」

 

 弓花は言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る