魔女っ娘ユリピュア劇場版~恋のモーレツ春の嵐を呼ぶジャンボでっかい恋はチョコっとビターだエーゲ海の真珠愛憎ラブ特急温泉湯けむり殺人説法

水原麻以

魔女っ娘ユリピュア劇場版~恋のモーレツ春の嵐を呼ぶジャンボでっかい恋はチョコっとビターだエーゲ海の真珠愛憎ラブ特急温泉湯けむり殺人説法

バレンタインデーを一方通行に規制したのは身勝手な大人の思惑だ。本来ならば恋人候補が互いに友達以上の関係をプレゼントを通じて確認する行事だ。それをチョコレートメーカーの都合で歪められてしまった。それも日本だけの風習だと聞く。欧米では告白の儀式として機能している。

私こと金沢由衣が恐怖を感じているのはまさしくその点だ。意中の人は2年生の山本忠弥。文武両道の美男子で話し上手。

普通は聞き上手が女子にもてる。しかし女同士が話題につまると罵倒合戦になる。

陰口や悪口は自分のアイデンティティーを引き立てる道具になるが多用するとネガティブなオーラを放つ。

忠弥はそんなギスギスした女の空間に風のようにあらわれる。そして空気のように自然に馴染んでる男だった。

「山本君っていつの間にか輪に入ってるね~」と誰か毎回が気づく。すると忠弥が「わりぃわりぃ、邪魔してごめんな」と爽やかに笑い、「うん、全然いいから~」と大歓迎されるのだ。ぜんっぜん嫌味がないので忠弥の闖入を「王子の降臨」とみんな喜んでいた。

ある時、義理チョコの話題が出た。「私たちの本命は山本君よね~」という意見で一致した。

誰かが「私たち、山本君に呪縛されてね?」って冗談めかすので私が呪術を見てみたいというと、いじめっ子の畑中凪咲が負の感情を爆発させた。

「由衣と山本君って仲いいじゃん。リア充爆発しろ」

凪咲の身体が爆発すると世界が一変した。

全てが煮詰まった日だった。野薔薇ちゃん、真希さんが突然、手から魔法弾を出した。

何、この超展開。昨日見た魔女っ娘ユリピュアまんまじゃん。あの話は二人の戦闘シーンは魔力が全開、 加えて”家柄”と”性別”に関する背景を交えた陰謀。この24分間全てが見所の素晴らしい決着をつけようという内容だった。

それが現実になる。


このままではクラスの誰かが殺されてしまう。どうしよう。

すると、どこからともなく板チョコが飛んできた。二枚貝のようにパタパタ羽ばたいている。そいつが茶色い声で喋った。きもっ。「やぁ、僕は恋の妖精だよ。由衣、魔女っ娘ユリピュアに変身するんだ。君の恋路を邪魔する奴は魔法でやっつけちゃえ」

無意識に私は魔女っ娘ユリピュアの変身呪文を唱えた。「カカオビターポリフェノール!」

すると私は茶色を基調とした衣装の魔女っ娘になった。

「私、魔女っ娘ユリピュア。悪い子たちには天にまします我らが神に替わって天罰マシマシよ」

「今度のユリピュアはペアで戦うんだ」

恋の妖精が魔法をかけた。

山本君も『山本燕尾服仮面』に変身。だけどチャラ男の山本君がいざという時頼りになるはずもなく――。

あっさり野薔薇ちゃんと真希さんに捕まった。

「ユリピュア、よくお聞き。山本君と別れなさい。そしたら命だけは助けてあげる」

定番の脅迫キター。でも私は魔女っ娘ユリピュア。テンプレの脅しには負けないっ。

「それで誰かを殺したらどうなる?君たちは僕を解放しても由衣の心は傷つく。僕を殺したところで同じ。君たちは結局誰かの恋路を邪魔してしまうんだ」

山本燕尾服仮面、意外と弁が立つ。つか、カッコいい。

「口先男が進化した?」

「野薔薇ちゃん、鼻の下を長くしちゃダメ」

真希ちゃんも山本オーラに溺れかかってる。

私はあらがう。「いいえ、人は誰かを傷つけないわけにいかないし、傷つけられても生きていける。魔女っ娘ユリピュアはわきまえないの。誰かを傷つけて死にたくなかったら、好きにさせて。もしかしたら、私、別れるかもしれない。それでもいいのなら」と私はユリピュアポリフェノールココア棒略してポリコレ棒を振りかざした。

「由衣、僕はもういいんだ」

山本君は問いを受け入れた。それが終わると、

「僕は別れたくないし、君は好きにしていい、いいよね?」と念の付け方の巧みさを見せる。

その問いかけに対して、「結局、あなたたちと取引したらど~転んでも大惨事を招くのよ。魔女っ娘ユリピュアを怒らせたら怖いんだから。あんたら末代まで恋が出来なくしてやる。天に替わって天罰マシマシカカオビターポリフェノール千ミリグラムよ」

「そんなに危険なことなのか?」と山本君が強い語気を発し、二人の魔女っ娘は「う~」と答えを引っ込めた。

ある年、私と山本君、二人は結婚を誓った。

その時、世界はどうなったの?


って、結婚してる場合じゃなかった。

このままじゃ、山本君か野薔薇ちゃん真希ちゃんペアのどっちかが死んじゃう。

「ユリピュア、そろそろタイムアップだよ」

恋の妖精がピカピカ点滅している。黄土色とこげ茶の二色じゃわかりづらいよ。

「時間って、あっ、24分」

もう22分経っている。「時間切れになるとユリピュアは竹の子山の茸集落にある『すのこ温泉』の三助になるんだ」

三助…女将じゃなくて、銭湯の三助。これはひどい。

オッサンになるのは嫌だし私は必死に考えた。

「そうだわ。ねぇ、チョコラタイマー。ユリピュアはどんな魔法でもつかえるの」

「誰がタイマーや。そうです。万能です」

「やってみる♪整いましたー」

そして魔女っ娘ユリピュアが変身する呪文を、私は忠弥に向かって唱えた。

「魔女っ娘ユリピュアよ、私の呪縛を解いて。ただいまより我が名は「魔女の末裔は『魔女っ娘 ユリピュア』」」

魔法名は「魔女っ娘 ユリピュア」。

つまりユリピュアの名義でありながらそれ以外の魔女に変身したわけだ。第三者となった私はユリピュア関連の呪文を全て解除できるはず。

私は忠弥の呪縛を解くと”魔女っ娘 ユリピュアは魔法名「山本燕尾服仮面」に変身する。

「山本君」と忠弥。「今のはユリピュアの変身術」と返したら、忠弥は元の人間に戻った。


「ごめん、ごめん。僕は燕尾服仮面があんまりわかっちゃなくて…」と忠弥。素直に未熟さを認める点がかわいい。それを聞いて私は泣いてしまった。

「ごめんね。危険な目にあわせちゃって」

「不甲斐ない僕が悪いんだ」

魔女っ娘ユリピュアは忠弥に「山本くんは優しくて、優しくて」と声を掛ける。忠弥は「そうだよ、由衣は僕の憧れの先輩なんだよね」

それを聞き「私、貴方の憧れに助けられてるのよ」と由衣が微笑んだ。「ねぇ、これってどっちが正解なんだろ?」

「山本君が私を助けてくれたんだよ」

「それってつまり僕が由衣から離れて行ったってこと、いや、このまま行ったら僕は由衣に恋してないってことになるのかな?」

私は二人のやり取りから心がザワザワする。「お前は由衣に恋をしてるんだぞ!!」って私は心のなかで忠弥に拳を握り締めていた。

その晩、私は忠弥と二人で「愛する由衣へ~!」を二人でいろんな所で歌っていた。

(前半終了)

トイレ休憩20分

特設グッズ売り場開店、ユリピュア限定フーズ販売開始、母娘コスプレコンテストお着換えコーナーオープン

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