3章 山猫とティアラ 06
アラスタの南南東付近。ルインとザットを繋ぐ青岩街道を跨ぎ東に進んだ場所を、ちょうど2日前と同じように3機のマギナギアが歩む。
違いがあるとすれば、それは進む方向だろうか。先刻は東から西へ、そして今は西から東へ。
ブラホーンの報告を受け諸々の準備に1日をかけた後、ティア達は一路アラスタの南東に位置するダッカス方面へと向かっていた。
出発時には背後に広大な夕霧の森を背負って居たが今では目視することはできない。
一行の先頭を進むのは、先の野盗から奪取したマギナギアを駆るカヤ。その後ろに白のマギナギアのティア、そして後方に同じく野盗から奪取したマギナギアのカザルが続く。
野盗の頭領が美人という話にホイホイと乗り協力することにしたカザルではあるが、1日おけばそれなりに冷静になるものだ。
前をゆく2機のマギナギアを眺めながら、なんとなはなしに考えを巡らせていた。
(ティアちゃんにしてもカヤちゃんにしても、マギナギアの操縦にかなり慣れてる感じがあるよなぁ。そもそも、あの白いマギナギア。ありゃワンオフだろうし、うーん、なんだろうな)
ティアの村から此処まではマギナギアでも多少の時間はかかる距離だ。
出発してからここまで、休憩なしでの移動を続けており、マギナギアの連続稼働に不慣れな者であれば少々つらい距離でもある。
不慣れな者は概ねマギナギアに全力でマナを注いでしまいがちだ。言うなれば全身の筋肉を張り詰めたまま歩いているようなもの。そんな状況であればあっという間に力尽きてしまう。
先日のティアの戦闘を純粋に見るならば、そういったマナを適度に扱う事に不慣れだったのではないか、という見方にもなるのだが、今のティアはそれなりの距離の連続稼働でも疲労しているようには見えない。
(マナ消費を抑えた稼働であれば特に問題ないって事か?)
ティア本人に問題が見られないということは、機体に原因がある、ということの証左でもあると考えられる。
彼の見立てではワンオフ、つまり特注のユニークな機体だと予想しているが、だとしてもあの戦闘時間の短さはもはや欠陥といっても良い。
(実験機…って事か?うーむ、分からんしもういいや)
元来、深く考えるのは苦手な性分だ。考えがまとまりそうにないと思うや、思考を放棄した。
と、丁度よいタイミングでカヤの声が届く。
「ところで…」
そう切り出すと、先頭を歩くカヤが足を止め、ゆっくりと振り返った。。
「何処で野盗を探すのです?」
「お前…先頭進んでてそれはないだろう…」
カザルのため息にも似た声が漏れる。
「し、仕方ないだろう!お嬢様を先頭にするわけにもいかないし、貴様は論外だ!」
マギナギア故にカザル本人がどのような顔をしているのかは分からないが、確実に呆れた顔をしているに違いない。
そう思うと、カヤの声が自然を大きくなる。恐らく今頃顔を真っ赤にしていることだろう。
そんなカヤへと助け舟を出してくれたのはカヤの主人たるティアだった。
「アラスタとダッカスの街道を中心にしているようですからその近辺…怪しいのは街道から南下したルフェール山脈沿いでしょうか」
ルフェール山脈はルインとザットを分かつ巨大な山脈だ。
山脈の南部、つまりザット側は鉱物資源が豊富で特にマナの結晶体であるマナストーンと呼ばれる鉱石はザットの一大産業の一つになっている。
対する北部では山脈の東側、ダッカス周辺において採掘が活発にされており、平坦な地形の多いルインにおける唯一の鉱山採掘場だ。
一方西側は熱湯が湧き出ていたり、謎の臭いガスなどが漂っている箇所が多くなかなか開発出来ずにいる。
今カザル達がいる場所はその丁度中間点あたりだ。
「確かに、身を隠すには妥当な場所ですね」
そういって、まだ距離があるにも関わらずその姿を鮮明に見ることが出来るルフェール山脈へと視線を向ける。
ルフェール山脈がゴツゴツとした切り立った岩が多く、巨大なマギナギアを隠しておくにはもってこいだろう。
だが、一つの懸念がカヤにはあった。
「けれど山脈沿いと言ってもかなり広範囲になりますね」
ルインとザットを東西に分かつだけの巨大な山脈だ。一言に山脈沿いといってもその範囲は広大になってしまう。
カヤの操縦席には地平線の先いっぱいに広がる山影が映し出されていることだろう。
彼女に釣られるようにしてカザルもそちらへと視線を向け、やる気のない声を出す。
「虱潰しでいいだろ」
「貴様は考えるのが面倒くさいだけだろうが」
「えぇいうるさい!そんな事言うが、お前には何か当てがあるのか?」
スパッと図星をつかれたカザルがもはや八つ当たりに近い事を言ってのける。
「いや、まぁ、確かに無いが」
そしてこちらもこちらでカザルの言うことに反論出来る要素はないのだ。
実際のところ、野盗の情報からではこのあたり、というところまでしか絞り込むことは出来なかったのだから。
「ならぐだぐだ言う前に行くぞ」
「全く自分勝手な!」
「まぁまぁ、今の所はそれ以外に方法も無いのですから、やるだけやってみましょう」
「仕方ないですね。本当に、もう」
ずんずんと先をゆくカザルとクスクスと笑いながらそれを追いかけるティアの背中を見ながら、カヤがため息をついた。
正直なところ、ティアとカヤの二人はこうした探索の経験など無いのだ。カザルが居なければ途方に暮れていたであろうことも間違いない。
今はカザルの言う通りにするしかないという、その点がカヤをより一層ピリピリさせていた。
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