2章 大小の刃

2章 大小の刃 01

 ゴトゴトと規則的な音を立てながら、比較的舗装された石畳の上を馬車が北へと走る。

 石畳はまっすぐに地平線へと伸びており、その終着点はまだまだ見えない。


 天候は晴天。


 平野の続くこの場所から南へと振り返るとやや南東には旧ルイン王国、現ウルスキア領ルインと隣国ザットとの国境であるルフェール山脈の影がうっすらと見える。

 馬車が走ってきた石畳はその山脈の裾を掠めるように伸びている。海の無いザットにとってはルインからもたらされる海産物、特に塩は大きな意味を持っており、少々前まではこの街道―ルインの海とザットの山脈を繋ぐとして青岩街道と呼ばれる―も賑わいを見せていた。


 西へと目を向ければ今度は西の隣国である聖ルッシーナ皇国との国境がある。

 この場所からでは見えないが、ルインと聖ルッシーナ皇国の間には夕霧の森と呼ばれる巨大な森林が鎮座している。

 一昔前までは迷いこんだら最後、生きては帰れぬ魔境とまで呼ばれていたのだが、今では中規模の商隊が通れる程度には切り開かれている。とはいえ、今現在においても未だに狼や熊といった猛獣の被害が絶えない為通商における難所であることには変わりない。

 しかしながら、ルインと聖ルッシーナ皇国との間にはこの夕霧の森を越える以外のルートは夕霧の森が途切れる北部地方にしか無く、南部における交通の要所なのもまた事実で、多少の危険を承知の上で利用する者は少なくなかった。


 そして、今、馬車が走るこの石畳の先にあるのが、ルインとザット、そして聖ルッシーナ皇国との街道の交差地点、交易における重要拠点といえるアラスタである。

 勿論、この馬車もそのアラスタを目指して、パカパカゴトゴトとのんびり歩みを進めているのだ。


 馬車には馬車の持ち主であろう行商人風の男が従者台にて手綱を握っている。


 背後の荷台にはザット産の良質な魔法の燃料とも言えるマナの結晶体、マナストーンが積まれており、おまけでその大量の荷物の隙間に潜り込むように一人の男が寝転んでいた。

 ボサボサの髪に薄汚れた服装、ボロボロになった革製のマント、そして何よりもそんなボロボロの格好には似つかないしっかりとした意匠を施された2mは越えるであろう巨大な剣が目につく。


 単純に巨大だというだけでもかなり目に付くのだが、更に気になるのは、その巨大な剣の柄だ。


 人が握りやすい太さというのは大抵決まっている。それ故に、剣の柄の太さもそれに準じたものになるのが普通なのだが、彼の持つ剣の場合は明らかに太い。そして更におかしなことに、ただ太いだけではなく柄の根元と中ぐらいが細くなっており、おそらくはそこを持つように作られているのだろうと予測出来る。

 とまぁ、なんとも不思議な形状の剣なのだ。

 彼の持つ剣がもっと一般的な物であればどこぞの傭兵崩れであろうと簡単に想像出来るものだが、その剣があまりにも場違い感を醸しだしており、なんとも言えない独特の雰囲気が彼を包んでいた。

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